Sunday 22 November 2020

大人になった紅衛兵

今から40年近く前に出版された、「中国人(Alive In The Bitter Sea)」という本がある。著者はタイムズ誌のジャーナリストだったフォックス・バターフィールド(Fox Butterfield)である。氏はハーバードを出てフルブライト留学生として中国に学んだので中国語が話せる。その才能を生かして文革後の中国を取材したのが本著である。当時はまだ中国が大国ではない頃だったが、想像を絶する過酷な世界に痛く衝撃を受けた記憶があった。

最初に読んだのは80年代半ばだった。当時は毛沢東が死んで鄧小平が経済を大きく伸ばしていた頃だった。中国はまだ貧しく、駐在で赴任した人は日本からの出張者の持ってくる食料品を楽しみにしていた時代だった。その本は埃を被り昔のアルバムのように本棚で眠っていた。それを最近読み直してみた。相変わらず著者の語学を生かした情報収集力に感心したが、中国は今も昔も同じだった。例えば中国には都市と農村の2つの中国がある事、人々は単位と呼ばれる所属に縛られる事、賄賂が公然と通用する事、人々は官僚主義の権威に弱い事、外国人はスパイである事、チベットやウイグルの少数民族の労働改造等々。痛々しいのは香港の話だ。当時は英国領だったので、難を逃れて逃げ込む中国人が多かった。せっかく海峡を渡り香港人になったが、皮肉な事に又中国人に戻ってしまった。  

怖いな!と思った話は子供の命名だ。李家の親は中国を愛し、中国人民を愛し、共産党を愛する意味で、長女に李愛国、次女に李愛民、三女に李愛党という名前を付けた。ところが最後の文字を繋ぐと国民党になるので親が逮捕されたという。もう一つ、ハッと思ったのは文化大革命の時に登場した紅衛兵である。ブルジョワと称する知識人、親、仏像を否定し破壊した彼らは、満足に教育を受けないまま大人になった。彼らの密告で多くの人の財産が没収され仕事を奪われた。文革は1966年から10年続いたので、当時の小中学生は今では50~70歳代になっているはずだ。中国はその後大きく経済が発展し今やGDPは日本の3倍にもなった。ただそんな社会の中枢は、元紅衛兵なのである。

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