Monday 30 May 2022

黄金の魔力

先日部屋を片付けていると、真新しいカナダコインが出て来た。エリザベス女王をモチーフにした5ドルコインだった。それを渋谷の古銭商に持っていくと、何と5万円近い価値が付いたのにはビックリした。思いもしないお宝発見に少し色気付いた。

そんな最中、昔の本だがダグラス・ボイドの「外人部隊(原題:The Eagle and The Snake)」を読んでいると、こちらもお宝の話だった。物語はフランスの外人部隊の生き残りが、ベトナムのディエン・ビエン・フーで金塊を取り戻す話である。金塊は兵隊の給料であった。白い帽子と呼ばれる元傭兵たちが、退役後に同じメンバーで現地に戻る件は中々読み応えがあった。

金塊と言えば、浅田次郎の作品で映画にもなった「日輪の遺産」もあった。物語はマッカーサー財宝を、軍がフィリッピンから持ち去り日本の山中に隠した処から始まる。その額は現在の価値で200兆円というから凄い。競馬場で知り合った老人が、死ぬ前にふと漏らした事からその存在が発覚する。大金を持っているとつい他人に云いたくなるようだ。 

またナチの黄金を扱った映画、「ネービーシールズ(原題:Renegades)」も面白い作品だった。湖底に沈む金塊2000個を海兵隊員が奪還する。舞台がボツニアという辺鄙な場所や、ナチが村ごと湖底に沈める隠匿は中々リアルだった。 

黄金は人の心を迷わすと言う。普段あまり縁がなくても、小説にちょっと組み込ませただけで、俄かに活気付く魔力がある。言わんや現物なら尚更である。

Sunday 29 May 2022

ツォンガ最後の全仏

今年もローランギャロスが始まった。大坂なおみが1回戦で敗退したり、トォンガやシモンのの初戦で盛り上がった。どちらも今季で引退するフランスのエースなので、一回戦とは思えない白熱とした内容だった。 

 特にカレーノ・ブスタとフルセットを戦ったシモンへの声援は凄かった。老若男女、子供まで含めた観客が、夜の1時を廻っていると言うの大興奮であった。改めて「彼はこんなに愛されていたのか?」と羨ましかった。

トォンガの対ルード戦はもっとドラマティックだった。第四セットで肩が上がらなくなったトォンガが、タイムブレークで0/6になった時だった。マッチポイントを迎えると、彼の目から涙が溢れて暫し時間が止まってしまった。ルール上はオーバータイムでペナルティーを課されるところだが、オーバールールになった。それはとても感動的な場面だった。 

一方で女子はシフォンテクというポーランド人がシードNO1についている。暫く見ないと激しい入れ替わりである。嘗てのレジェンドが去る中、若い人が伸びて来るのはとてもいい事である。 

 日差しの強いこの季節、選手の鍛え上げられた肉体がまるで芸術作品のように浮かび上がってくる。それがまた赤土に映えてとても美しい。赤土はフランス語でterre battue(砕かれた土)と呼ぶ。石灰を砕いた語源だが、選手もそこで粉々になっていく。今年もあと一週間、誰が残るのか目が離せない。

Friday 27 May 2022

カラスの死骸

先日、庭で犬が吠えていた。誰かが通り掛かったのだろうと思って放っていたが、中々鳴き止まないので出てみた。すると木の下にカラスが横たわっていた。仲間外れになったのか、将又食料不足なのだろうか、全く元気がない。

どうしたものかと思っていると、あっと言う間にひっくり返ってしまった。死んだことは直ぐに分かった。虫は死ぬと仰向けになるが、全く同じであった。 

早速保険所に電話すると、管轄は清掃局という。そこで清掃局に連絡すると、「箱に入れて家の前に出しておいて下さい」と言われた。「気持ちが悪いので庭まで取りに来てください」と頼んでも、「敷地内には入れない事になっています」と役所らしい返事が返ってきた。 

 仕方がないので、スコップで取って死骸を箱に詰めた。愛犬はそれを黙って横で見ていた。言われた通り家の前に置いておくと、暫くしてゴミ回収の人が持って行った。

それにしても気持ち悪い事極まりない。今年は巣作りがなくホッとしていたら、思わぬ珍事が待っていた。

Sunday 22 May 2022

霧ヶ峰のグライダー

5月の連休に、友人のT君夫妻が霧ヶ峰に別荘を建てたというので呼んでくれた。南アルプスや八ヶ岳が望める絶好のロケーションで、優雅な休日を送っていた。

その霧ヶ峰だが、思えば初めての場所だった。広い丘の上に着くと、駐車場は遠方からの車やバイクのツーリングの人で溢れていた。近くに飛行機が止まっているのが目に入った。地元のグライダー倶楽部らしく、そう言えば諏訪に住む仕事仲間のKさんが、週末に通っていると話していた事を思い出した。山の上に突然現れた翼にはビックリしたが、日本離れしたスケールがあった。

飛行機と言えば、何年か前にアメリカの東海岸を旅した時だった。アメリカ発祥の地であるノースカロライナを車で走ると、キティーフォーク(Kitty Hawk)という砂洲の町に入った。「軍艦の名前と同じだ!」と思っていたら、多くの観光客が集まっている場所があった。 

そこは何と、ライト兄弟が初めて有人飛行に成功した記念すべき場所であった。広大なセンターに入り、記念館や彼らが大西洋の風を使って舞い降りた小高い丘を廻った。飛行の一回目は120ft(36m)から始まり、四回目では852ft(259m)を飛んだ。その印が残っていて、レンジャーが当時を解説していた。

その日はその町に泊まろうとホテルを探したが、どこも満員であった。仕方なく一番近いとは言っても、80㎞離れたエリザベス市まで車を飛ばした。幸いそこで宿を見つける事が出来たが、レストランがハンバーガーショップ以外何もなかった。そこで閉まりかかっていたショッピングセンターで、ビールとハムを買いホテルで食事をした。そんな大変な一日を思い出した。


Sunday 15 May 2022

スウェーデンという国

フィンランドがNATO加盟を申請した。スウェーデンもやはり加盟するという。フィンランドは兎も角、第一次、第二次大戦時でも中立を保ったスウェーデンの動きはちょっとした驚きである。 

スウェーデンと言えば、スイスみたいなクリーンなイメージが付き纏う。映画「パリは燃えているか?」でオーソン・ウェルズ演じるスウェーデン大使が、ドイツ軍との仲介に奔走してパリを救っていた。

そんな国がどうして永年に渡って中立が出来たのか?これも私見だが、偏に地政学によるラッキーだと思っている。何より隣のフィンランドが壁になってくれた事に尽きる。加えて国土は、使用済核燃料を地下深く保存出来る強固な岩盤層に恵まれ、南はバルト海に面している。 

 嘗てはオスマンまで下った大帝国だったが、18世紀の北方戦争でロシアに敗れたのが大きかった。それを境に今の形になってしまった。ただ自衛力は、飛行機のSAABや重火器のBOFORS、VOLVOも戦車メーカーだし、自前で賄っているのが凄い。ストックフォルムの軍事博物館では、これを使い国連のNPOで活躍した話を紹介していた。

人や街並みはクール過ぎてちょっと馴染みにくい。スティーブ・ラーソンの小説「ドラゴンタツーの女」に出て来るリスベットは男みたいな女だった。ユニセックスが高じるとこうなるのだろうか?貴公子と呼ばれたテニス界のステファン・エドヴァーグやイングリッド・バークマンも美しいが、絵のような世界の人である。街並みも綺麗だが、何か寒々しく物価が高いので居心地は良くない。

加盟ではトルコが反対しているという。そもそもトルコなんて入れた事が間違いだったと思うが?フィンランドに頑張ってもらって今回は見合わせると言う選択もある。ただ最早、地政学の時代は終わっているのかも知れない。

Thursday 12 May 2022

ロシア人のパラノイア

随分昔の本だが、W.Adlerの「シベリア横断急行(Trans-Siberian Express)」という小説があった。余命が迫ったソ連の書記長が、核のボタンの葛藤を描く物語である。アメリカ人の医師やKBGも同じ列車に乗り合わせ、シベリアの荒野を舞台にドラマが続いた。

小説としては今一面白みに欠けていたが、訳者が後書きでロシア人の偏執病(パラノイア)に触れていたのが興味深かった。それは、アメリカが中国に肩入れし過ぎると、ロシア人のパラノイアに火を付け掛けかねないと、著者が警告するエピソードである。

偏執病は、「他人の敵意を勝手に想像して一連の妄想を抱く事」である。時代は変われど正に今のプーチンそのものであるが、一体このロシア人の性癖はどこから来るものなのだろう? 

私は兼ねがねそれは、ロシアの地政学と関係していると思っている。つまり一年中を通して殆どが冬の閉ざされた土地に住むと、人は忍耐強くなる一方で、牢屋に閉じ込まれているような気分になり、それが被害者意識に繋がっていくという説である。

彼らは西洋人が四季に恵まれ、夏の太陽を十分浴びる光景を見るにつけ、同じ人間だから常日頃から妬みと不平等感を持っている。太陽信仰の一種だが、アフガニスタンやグルジア、嘗てのオスマン帝国、そして今回のウクライナへの侵攻も、そんな心境に根ざしているのは間違いない。

因みに余談だが、訳者の故中野圭二氏は「シャドー81」など多くの翻訳を世に送り出している。学生の頃英語の授業で習った事があったが、黒縁の眼鏡と胃が悪いのではないか?と思わせるニヒルな風貌で、如何にも学者らしい人だった。

Wednesday 11 May 2022

カラフルな霞が関

霞が関の若手官僚が、カラフルな霞が関を目指した提言を行った。ブラックのイメージを払拭するのが目的だと言う。背景には、この6年間で若手の離職者が4倍にもなっている事がある。国を支える人がいなくなるのは、誠に由々しき事態である。 

ブラックの原因は、何と言っても国会対策である。先生方の質疑に待機するのは、霞が関の官僚ばかりでなく、政府系の外郭団体まで含めると大変な数になる。一度待機命令が出ると、いつ鳴るかもしれない電話の番に当たる。夜遅くまで全員が居残り、泊まり込みは若手が担当する。凡そ家庭との両立など出来る訳がない。

もう一つはマスコミ対策である。役所の仕事の殆どは辻褄合わせである。よく「新橋駅前の人100人に聞いたら?」という言葉を耳にする。市民感覚を大事にしつつ、不都合な真実が出て来ると、正当な論理へのすり替える作業が始まる。先のモリカケではないが、そこには担当者の犠牲が伴うのは必至である。ただこの作業を卒なく熟せる様になると、評価が高まるのだが・・・。 

更に最近ビックリするのは、若手の人が昔に比べて随分と礼儀正しく言葉使いも丁寧になっている事だ。これも時代の要請なのだろうか、役人と言うと威張って横柄だった時代を知る者にとっては、ちょっとした変化である。ただ問題は、安い給料と権威、威厳のバランスである。人間だから権威と威厳が無ければ、単なる事務屋に成り下がってしまう。文字通りの(シビル)サーバントだが、退職者が増えているのは、このプライドの部分が大きい気がしてならない。

昔から役所は暗く地味なイメージが付き纏う。書類が山積みされた大部屋で、サンダル姿は定番、女性も地味なおばさんタイプが多い。服装にも無頓着で、電車に乗っていると一目で役所の人と分かる独特の雰囲気がある。カラフルな職場に変えたい若手の気持ちもあるが、中々現実はそう簡単には変わらない気がする。

Tuesday 10 May 2022

酒紳四戒の聖地

吉田類の追っかけをやっている訳ではないが、番組に出て来た老舗を訪れると感動するから困ったものである。

この冬から春にかけて、二つの居酒屋を訪れた。 その一つは神保町の「兵六」である。地下鉄に乗ろうと歩いていると、三省堂の裏路地にちらっと看板が目に入った。「あれ、ここっていつか番組でやっていたよな!」と思って暖簾を潜った。まだ時間も早いので客も疎らだった。小さな店だったが、昭和にタイムスリップしたようなレトロさが漂った。
 
竹を割った座りにくい長椅子に座り酒を頼んだ。常連はさつま無双の熱燗とは後で知った。静かに飲んでいると「酒紳四戒」という兵六憲法が目に入った。読むと他座献酬、大声歌唱、座外問答、乱酔暴論と書いてあった。要は「酒は静かに飲め!」と言う事だった。昔通った神楽坂の伊勢藤を思い出した。正に背筋を伸ばして嗜むと、ヒトに品格が伴うから不思議である。

もう一軒は八王子の「多摩一」である。16時半の開店を待って飛び込むと、既に常連さんが飲んでいた。「お亡くなりになったXX先生は・・・」と、どうやら学者仲間の声が聞こえてきた。木造の落ち着いた雰囲気と、ここも静かに飲む客層の良さを感じた。 早速この店の看板酒の「多摩一」を頼んだ。「何と旨い地酒か!」、帰り際に勘定を見て一合で450円なのにもビックリした。

飲む内に次第に込んできたが、常連はやはりこの多摩一から始めていた。帰り際にご主人に「吉田類の番組を見て来ました」と伝えると、主人は「吉田さんは番組の収録が終わると、また戻って来て飲み直していたんですよ!」と教えてくれた。余ほど気に入ったようだが、行ってみてその訳がよく分かった。

処で暫く前だが、学生時代から敬愛するSさんにそんな話をすると、「(サラリーマンを辞めて)まだそんな事やっているの?」と言われた事があった。その時は「確かにそれもそうだな」と思って神妙な気分になった。吉田類もいいが、正直ちょっと複雑な思いの今日この頃である。