Friday, 20 January 2023

シシリーの田舎旅

そのコルレオーネ村に行く途中、陽が暮れて来たので宿を取る事にした。処が大きな町もなくそれらしき建物もない。ある村で歩いている人にホテル、オテル、ペンション・・など知る限りの言葉を並べてもちっとも通じない。その時ある人が「あの雑貨屋に行ったら?」と指さしてくれた。 

その店に入ると、これまた主人と言葉が通じない。困っていると「弟なら英語が分かるから待っていろ」と言う。暫くするとその弟がやって来て事情を話すと、「この村にはホテルはないが、ここの2階で良かったら泊めてやる」という。その晩は彼の厚意に甘えて泊めてもらったが、歩くたびに床が軋む古い家だった。

翌朝発とうとすると、昨日の弟がやってきて「村を案内してやる」と言う。折角なので彼の車に乗り、着いたのはオリーブ畑だった。彼の家はオリーブを営んでいた。瓶の中から作り立てのバージンオイルを試飲し、「どうだ旨いだろう!」と自慢する。やは現地で味わう作り立ては違う。

 その次に行ったのは村の教会だった。中に入ると沢山の骸骨が服を着て陳列されていた。どうやら村人が亡くなると、こうして葬るのが仕来りだったようだ。大人も居れば小さな棺には子供もいた。不思議と気味悪くなく、イタリアの古い田舎文化のに思えた。 

シシリー島はイタリアの中でも最も貧しい地域と言う。その貧困がマフィアを生んだのだが、至る所にギリシャの古跡が残り、ミシュランでも3つ星が8か所もある風光明媚な処である。シラクーサの町には映画カサブランカに出て来るようなアラブ人が屯ぎ、街道にはトラック運転手目当ての黒人娼婦が立っている。魚は新鮮だしワインも美味かった。出来ればもう一度行ってみたくなった。

Wednesday, 18 January 2023

シシリーマフィアの逮捕

先日、シシリーマフィアの大物マッテオ・メッシーナ・デナーロが逮捕された。30年の逃亡生活の末という。彼のボスだったサルバトーレ・リーナも24年の逃亡生活だったので、二人は同じ運命を辿った。

デナーロの罪状の一つが1993年5月のテロだった。以前読んだシルヴィオ・ピエルサンティの「イタリア・マフィア」にその事件が出ていた。ターゲットはTVのコメンテーターで、日頃からマフィアを風刺していた男だった。ローマで車が爆発し一人が死亡し30人以上の負傷者が出した。

シシリーマフィアに興味を持ったのは、10年ほど前にシシリー島を旅した時だった。映画ゴッドファーザーで有名なコルレオーネ村を訪ねたのが切っ掛けだった。ドン・コルレオーネを思い浮かべながら歩いていると、村人が全員マフィアに見えてきた。外に立っているのは殆ど男で、皆んな立派なスーツと革靴を履いていた。村の中央にキャフェがあったので思い切って入ってみた。一斉に視線が注がれたのが分かり、あわててコーヒーを飲むや否や退散した記憶がある。

ところでそのゴッドファーザーにも出て来るが、バチカンの汚職事件でロベルト・カルヴィ頭取が暗殺された件があった。ローマの橋から吊るされるシーンはショッキングで、そのスキャンダルを扱ったラリー・カーヴィンの「誰が頭取を殺したか(The Calvi Affair)」は最も面白い読み物の一つになっている。その殺害を指示したのが、今回のデナーロのボスだったリーナと分かり、過去と現在が繋がったのであった。

処でシシリー島の首都はパレルモである。先の本の中に「パレルモ住民の3/4はマフィアと何らかの関係者」と書かれていた。そんな事とは知らず、呑気にバールで飲んでいたかと思うと背筋が寒くなった。

Saturday, 14 January 2023

泉晴紀さんの流儀

車の中でラジオを聴いていたら、漫画家の泉晴紀さんが面白い事を言っていた。それは彼が若い頃、編集者に連れて行ってもらった体験だった。

編集者はお金がなかったので、近場の安居酒屋に行ったのだが、その前に銭湯に寄ってひと汗流したという。その何の事ない作法が、ビールを美味しくさせて驚いたという。以来彼はその流儀に嵌ってしまい、飲む前には近場で銭湯を探し清めるという習慣が出来たという。

泉晴紀さんは「孤独のグルメ」で知られる久住昌之さんとコンビを組んで、泉昌之のペンネームで活躍する人という。失礼ながらその放送を聞くまで存知えなかったが、話を聞いていると作品が生まれる理由も頷けた。

かくいう私もそれに似た工夫を施している。最近は家飲みが増えているが、飲む前に近くの公園を2~3Kmジョッギングする。大した運動量ではないが、帰ってシャワーを浴びて飲むビールの味が各段に違う。「空腹こそ最大のご馳走」と誰かが言っていたが、ちょっとした工夫で人生が豊かになる。

Thursday, 12 January 2023

東野圭吾の本

街を歩いていると、若い人の服装が気になる。男も女も同じような色彩で、地味で安っぽい。特に今時の女性でハイヒールを履く人は皆無で、ズックみたいな靴が一層貧祖に映る。これも彼是30年は続いているデフレが成せる業か、将又男女差の敷居が低くなりつつある社会現象か、昔を知る者にとっては嘆かわしいの一語である。

 そんな矢先、若い人に人気のある東野圭吾を始めて読んでみた。今まであえて読まなかったのは、大衆的で内向きな処が何か赤川次郎に似ていて、俺のジャンルではないと思っていたからだ。手にしたのは20年以上前に出た「秘密」であった。

物語は交通事故に遭った親子が入れ替わる話であった。生き残った娘は話してみると実は死んだはずの妻だったり、その稚拙な設定からして一体何が面白いのかさっぱり分からなかった。とても最後まで我慢出来ずに途中で止めてしまった。

 同じようなタッチは、百田尚樹の「プリズム」にもあった。此方も20年ほど前の作品だが、多重人格の男に人妻が惹かれる話であった。百田氏の歴史ものは歯切れが良くファンの一人だが、こういった陰湿的なタッチはあまり冴えがない。そもそも家庭教師で通い始めた家の、居候と懇意になるストーリーも気持ち悪かった。

 デフレが長引き所得が伸びないと、若い人の心が停滞するのもよく分かる。20歳代でデフレを体験し始めた人は、もう50歳代になっているから恐ろしい。加えてこの何年はコロナで他人との距離が広がっている。その閉塞感はもはや日常化していて、見ていて本当に気の毒だ。先程の小説が受けるのも、こうした社会を投影しているからだろう。

Thursday, 5 January 2023

パリは燃えているか?

NHKBSの「映像の世紀」はいい番組である。たまに見るが、これならNHKをぶっ壊さなくて良かったと思える制作である。時代と言う濁流に押し流されながら、人々が逞しく生き抜く姿にいつも感動させられている。その映像を引き立たせているのが、繰り返し流されるあの重厚な音楽である。

たまたま「街角ピアノ」を見ていたら、その曲の作者である加古隆さんが軽井沢の自宅で奏でておられた。緑が映える美しいアトリエと、重苦しいメロディーはアンマッチングであったが、それは糸が張り詰めたような緊張感があって素晴らしい光景だった。改めて大きな感動を呼ぶ芸術家の力も感じた。https://www.youtube.com/watch?v=e0o3-dUvC2Y 

 曲の名前は「パリは燃えているか?」である。ラリー・コリンズの同名の作品が映画化され、こちらのテーマソングは弦を弾いた軽快なテンポだった。どうしてあえて同じタイトルにしたのか、こればかりは本人に聞いてみないと分からない。また結局パリは燃えなかったのに、どこからあの悲惨さが来たのだろう? 

 余談だが、「パリは燃えているか?」の小説は緻密な描写がとてもリアルである。例えば米兵士がシテ島のキャフェを出た瞬間に撃たれた件や、ヌイイ市役所の階段を戦車が昇るシーン、ノートルダム寺院の前で戦車戦が行われるシーンなど、ドイツ軍本部のムーリスホテルも現在もそのままなので読者はいつでもタイムスリップ出来る。

映画では若い頃のアラン・ドロンやジャン・ポール・ベルモントが華を添えていた。パリを破壊から救ったコルティッシュ将軍に対する感謝の念も後を絶たない。

Thursday, 29 December 2022

下級武士の話

百田尚樹の「影法師」は、流石ベストセラー作家だけあって、読み出したら止まらなかった。物語は江戸末期に下級武士が出世する話である。剣の道や武士の想いなど、「永遠の0」のような伏線が巧みで唸らせた。特に面白かったのは、当時の武家社会の実態であった。

例えば藩校、本来は上級武士の為の学校であったようだ。そこに主人公の下級武士が特別に入学したので虐めに遭った。また主人公が娶ったのは使用人の娘、つまり下女であった。下女から直接武士の嫁にはなれないので、書類上一度他の武士に養女として出された。婚姻は上級武士は上級武士同志、中級・下級との縁組はなかったようだし、次男に生まれると婿に出なくてはならないし、それが叶わないと居候として暮らす運命だった。 

そんな事で思い出したのが福沢諭吉である。彼が生まれたのも、中津藩の下級藩士の家だったからだ。よく「門閥制度は親の仇でござる」と口にしていたのは有名な話だが、時代が時代でなかったら、彼もその中で終わっていた。

今年は「学問のすゝめ」の刊行から150周年という。有名な「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと云えり」の件は勇気を与えてくれる。今に通じる名言も多く、例えば「顔色容貌を快くして、一見直ちに人に厭わるる事無きを要す」は、人は第一印象が大事だから容姿には気を付けろ!だし、「一身独立して一国独立する」も正にその通りである。

Tuesday, 27 December 2022

イランのヒジャブ事件

暫く前に、イランでヒジャブの被り方を巡って女性が死亡した事件があった。抗議デモは全土に広がり、2万人近くが逮捕されたという。彼女を捕まえたのが道徳警察という。何かジョージ・オーェルの小説「1984」に出て来る思想警察を思い出してしまうが、やはりイスラム社会の怖い一面を垣間見た感じがした。

そんなイラン社会を描いたのが、映画「アルゴ」である。イラン革命の最中、脱出の機会を逃した米国大使館員をCIAが救出する物語である。SF映画の撮影隊に扮した脱出劇は間一髪で成功するが、捕まれば何をされるか分からない恐怖感が伝わってきてハラハラした。

 またトルコを舞台にした映画「ミッドナイトエクスプレス」もあった。こちらは麻薬を所持したアメリカ人青年が捕らえられ、長年の刑務所生活を送る実話であった。人生の一番大事な時に、朝から晩までコーランの中で過ごす過酷さは凄かった。 

尤もマレーシアのように、死刑を求刑する国もあるからまだいい方かも知れない。

そのマレーシアのクアラルンプール空港で昔、カバンの中に入っていた日本の週刊誌が、検閲で引っかかった事があった。検閲官がパラパラとページを捲ると、女性の水着姿の写真が出て来たのだ。悪気はなかったが、一瞬「これはまずい事になるかも知れない」と構えた。幸い没収され事なきを得たが、甘く考えると危ない。