Sunday 28 February 2021

Warburg家の起源

最近はさっぱりご無沙汰しているクラシック音楽だが、若い頃はレコードを集めたり良く演奏会に通った。中でもブラームスが気に入っていて、特に交響曲2番は運命を暗示する出だしから、明るい青春時代を経て人生を締めくくる壮大な流れが好きである。そう思っていたら、「ウォーバーク、ユダヤ財閥の興亡」の最後に、著者は「Warburg家物語はブラームスの交響曲のようで、長くメランコリックで悲しいが、同時に希望と勇気に満ちて感動的で、奇妙にも突然人々を奮い立たせる」と語っていた。その一節にとても共感し、それも美しい表現で嬉しくなった。

そのWarburg家だが、起源はドイツの両替商兼質屋であった。利子を取る金貸しはキリスト教の精神に反する不浄な行為だったので、その罪を身代わりのユダヤ人に犯させた処から始まったという。今ではその利子がお金を生み、神に代わって人々を支配しているから誠に皮肉である。ユダヤ人と言えば誰しもシェークスピアのベニスの商人を思い出す。主人公のシャーロックはお金に貪欲で冷酷な代名詞である。またユダヤ資本が世界を制覇する闇の組織みたいなイメージもある。ただ本当にそうなのか?Warburg家から伝わってくるのは勤勉で質素なイメージだったし、仕事で知り合ったユダヤ人もごく普通の人だったので実の処はよく分からない。 

本の中には日本とのエピソードも出てきた。高橋是清が日露戦争の起債に漕ぎつけたのはKuhn LoebのSchiffの功績だった話は有名であるが、その高橋は自分の14歳の娘を三年間アメリカのシフに預けた。娘は帰国して大久保利通の子と結婚した。SchiffとWarburg家は親戚関係にあった。ドイツでユダヤ人迫害が迫り身の危険を感じたMax Warburgは、亡命を前提に高橋を訪ねる日本出張を計画した。ところが旅立つ前日に二二六事件が起き高橋が殺されてしまい急遽中止になった。またSG Warburgのジークムントは日本政府から勲章を授与されたが、先代に謎られた伝統意識で喜んだ等々。

Saturday 27 February 2021

一代のSG Warburg

あれは90年代半ばだったか、マーチャントバンクのSG WarburgがスイスのSBCに買収された。それから間もなく、今度は同じスイスの大手UBSが両者を飲み込んだ。英国ビックバンとアメリカ型の投資銀行が台頭した過渡期だったが、ロンドンの老舗が次々と消えていく姿に時代の流れを感じたものだった。

マーチャントバンクと聞くと、マホガニーに囲まれた部屋で高級な背広に身を包んだシティー紳士を連想する。同じくRothschild, Goldman Sachsもそうだが、ドイツ由来の名前は重厚である。銀行なのに預金の窓口もなく、少人数で大きな金を動かすから荘厳な感じがする。若い頃SG Warburgではないが、東京に店を構えるあるマーチャントバンクを訪れ、試しに「預金をしたいのですが?」と聞いてみた。受付の女性はその場違いの客に対し、「1億円(今から思うと1百万ポンド)から受け付けます」とサラリと答えた。以来その実態を殆ど知る由もなかったが、最近Ron Chernow著の大作「ウォーバーク、ユダヤ財閥の興亡」を読み返してみると少し様子が分かって来た。  

まず老舗と思っていたSG Warburgは意外と新しい会社だった。設立されたのは戦後で、創業者のジークムントがヒットラーから逃れてドイツから英国に渡ったのが始まりだった。そんな彼が亡くなると10年程でSBCに吸収されたので、ほぼ一代で終わった事になる。Warburg家はハンブルグの北の町Warburgが発祥の地である。嘗ての朝鮮みたいに、ドイツのユダヤ人は姓名を持てなかったので町の名前を冠したようだ。本格的に両替商としてスタートしたのはハンブルグだったが、それも18世紀半ばだからそんなに古くはない。早い時期にミテルヴェークとアルスターウーファーのWarburg家に枝分かれ、アメリカに渡りFRB創設に携わるポールやドイツ国立銀行のマックスなどを輩出し栄えたのが前者だった。ただSG Warburgのジークムントは後者の出だった。

Tuesday 23 February 2021

中国の強制移住

以前読んだ川島博之氏の「戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊」という本があった。氏によると、中国の人口13億人の内、都市に住めない農民戸籍(農民工)が9億人もいて、彼らが4億人の都市戸籍を支えていると言う。今の中国の繁栄は都市住民の繁栄であり、その陰には内陸に縛られた農耕民がいるようだ。ただその実態が中々分からなかったが、一昨日再放送されたNHK BS「離郷 そして~中国、史上最大の移住政策」を見ていたら生身の農耕民が登場していて、日曜の朝だと言うのについつい見入ってしまった。

ドキュメントを見た方も多いと思うが、寧夏省の回教自治区に住む農民の話であった。それはある時村に役人がやってきて、「近くの銀川市に集団移住する事になった」と言われる。新しい家には水道やヒーターも付いている夢のような話であった。農民は選択の余地がないまま移住を決断して村を出た。ところが教育・技能のない農民にとって、都会で仕事に就くには至難の業で生活は直ぐに困窮した。元農民は「本当にそれで良かったのか?」と自問するが、元の家は取り壊されて帰るに帰れない処で放送は終わった。  

共産党による移住の名目は貧困の撲滅であった。同じ回教徒のウイグル自治区でも集団移住があると聞いていたので、貧困撲滅は少数民族の土地を取得するキーワードなのだろうか?共産党員が諭す口調はソフトだが、従わなかった場合は孤立=死を意味するから実態は強制である。そのアメとムチの使い分けが共産党らしく不気味だった。移住した元農民には念願の都市戸籍が与えられた。それを受け取った人々の喜びが目に焼き付いた。普段NHKを殆ど見ないので、“料金を取るのはけしからん!“と思っているが、こんな番組なら少し許せた。

Saturday 20 February 2021

テキサスの寒波

10年ほど前にテキサス州を旅した事がある。車で走る事3000㎞、日本の面積の2倍の州はやはり広かった。ヒューストンの宇宙センターやダラスのケネディー大統領狙撃現場では生のアメリカ歴史に触れた。特にダラスは当時のまま一画が保存されていたので、オズワルドの犯行説に誰でも首を傾げるのであった。またアラモの砦やメキシコ国境のリオ・グランデ川はジョン・ウェンの西部劇を彷彿とさせてくれたし、ニミッツ提督の故郷の太平洋戦争博物館では、ハワイで捕獲された酒巻少尉の特殊潜航艇に遭遇した。運転に飽きるとゴルフもよくやった。行く迄は大味なイメージがあったが、中々中身の濃い土地だった。

そのテキサスだが、今寒波と停電に襲われている。復旧が進み停電の世帯も20万人に減ったとは云え、水道管が破裂した水不足は深刻なようだ。寒い中で給水車の列に並ぶ人達の姿が痛ましい。停電の原因の一つが風力発電機の凍結という。確かに旅行していると、荒野の岩山に物凄い数の風車が立ち並んでいた。それと石油の掘削機、ひと気のない砂漠でどちらも黙々と動いていた。それを止めてしまう自然の力は恐ろしい。

今回の災害時に、州選出の議員がメキシコに旅行中だった事が問題になっている。日本でも昔、森首相がえひめ丸の事故の時にゴルフを続けていた事で非難された。この辺どこの国でも同じである。

Wednesday 17 February 2021

森会長の女性蔑視発言

オリンピック委員会の森会長が女性蔑視発言で辞任した。当初は謝罪して終わるかと思ったが、スポンサーのNBCやIOCのコメントで辞めざるを得なくなった。あとオリンピックまで半年を切っているし、大変な事になってしまった。

問題の発言は「女性が沢山入っている会議は時間が掛かる」だった。最初聞いた時はそうかも知れないと思った。凡そ審議会や今回の委員会は、事務方が作ったシナリオに沿って権威付けをする儀式の場である。それを何か勘違いして、持論を延々と展開するのはやはりおばさん委員が多い。場の雰囲気を汲みしないと不協和音になってしまう。森さんもきっとその事が頭を過ったのだろう。  

NBCニュースでは、その性差別的な発言をSexist remarksと呼んでいた。性差別主義者をSexistと呼ぶらしい。そんな言葉がいつから出てきたのか知る由もないが、なにか敵を仕立てるようなニュアンスがある。マスコミが「オリンピック精神に反する」と言っていたので調べてみたが、結局何処に抵触するのか分からなかった。日本人は外来文化を輸入加工する能力に秀でている。ややもすれば本家以上に醸成してしまうが、これもその一つかも知れない。そもそもギリシャの聖火点火も、Vestal virgin(ヴェスタの処女)が務めるので正しくは性火である。「オリンピックは国やジェンダーの壁を乗り越える」と尤もらしく言う人がいる。一見聞こえはいいが、フラット化の行き着く先は共産主義だから胡散臭いものを感じる。ともあれ色々考えさせた事件だった。

Wednesday 10 February 2021

偉大な父を持つ娘

先日ミャンマーで軍事クーデターが起きた。アウンサンスーチー率いるNLDが、昨年の選挙で不正を行ったという。圧勝で軍の威信が低下するのを恐れたのだろうか?それにしても折角民主化の糸口が見えてきた矢先だけに、また昔に逆戻りしてしまった。タイやインドネシア、フィリッピンも一見安定しているが、所詮は軍事国家である。何か起きると直ぐに軍が出てくる。空港で銃を持った兵士を見るとその実態が分かる。アジアの国々は多かれ少なかれ、まだまだ未成熟だ。それを再認識した事件だった。

そのアウンサンスーチー氏だが、細い体で国民の希望を一身に背負っている姿に打たれる。そんな彼女も建国の父が凶弾に倒れ人生の転機が訪れた。それが無ければ、10数年に渡る自宅監禁も夫との別離もなく、ノーベル賞など多くの栄誉とも無縁だった。オックスフォードを出て国連に就職したというから、今頃はどこかの国で普通の生活をしていたはずだった。その32歳で倒れた父も、太平洋戦争で日本軍に担がれたのが始まりである。独立運動の旗手になり、最後は首相候補に上り詰めた事が悲劇に繋がった。 

同じ女性として韓国の朴槿恵氏もそれに似ている。彼女も大統領だった父が凶弾に倒れ、その意思を継いで政治の世界に入り第18代大統領になった。ただ道半ばで弾劾され失職して先日20年の懲役が確定した。偉大な父を持つと、その後の運命が大きく変わる。

Thursday 4 February 2021

バトンルージュの町

ジェフリー・アーチャーのクリフトン年代記に、Lady Virginiaという女性が出てくる。彼女は貴族の出だが、カネが無くなると男を見つけて金策に励む性癖があった。ある時、アメリカ人の金持ちと知り合い一晩を共にすると、偽装妊娠を思いついて遥々ロンドンからアメリカまで彼を追いかけた。それも彼の結婚式に紛れ込んで仰天させる作戦に出た。その甲斐あって長年に渡って子供の教育費をせしめる事に成功するのだが、その町の名前がバトンルージュ(Baton Rouge)であった。「赤い杖」を意味する何ともエキゾティックな町の名前は、元スペイン領から来ていた。

そのバトンルージュだが、池上彰さんの本を読んでいたら、日本人高校生の服部君が誤って射殺された街だと分かった。事件は1992年のハロウィンの晩、近所の家をノックすると突然発砲された。犯人は自宅侵入の正当防衛で無罪になり、改めてアメリカの銃社会の常識を痛感したニュースであった。そんな物騒な場所に英国人とは言え、女一人でしかもカネを揺すりに行くなんて尋常ではない。小説でも正体がバレると、慌てて産気付いて退散していた。  

学生の頃アメリカをグレイハウンドで一周した事があった。近くのニューオーリンズに泊まり、夕方一杯飲みに出るとパチオと呼ぶ中庭に店があった。一ドルを出すと女の子がテーブルの上で踊ってくれた。歌劇カルメンに出てくるジプシーのようで、アメリカにあってスペインの風情が残っていたのを思い出した。

Monday 1 February 2021

危険一杯のテニス

健康維持に欠かせないテニスだが、コートには危険も孕んでいる。時に寒いこの季節、クラブハウスに戻ると温かくて、ビールでも入るものならつい眠たくなってしまう。随分前だが、年配者の人が椅子でうたた寝していた。ところがいつまで経っても起きないので、誰かが見に行くと既に亡くなっていた。好きなテニスで最後を迎えられるなら幸せの気がするが、やはり人には迷惑が掛かるから止めておきたい。

ボールを追いかけて転倒する事は日常茶飯事である。たた打ち処が悪いと思わぬ事故に繋がる。Sさんは後ろずさりした時に軽く頭を打った。仲間がベンチに連れて行き休ませた。するとSさんは、「俺何でここに居るの?」と言うではないか。早速救急車を呼んだが、一瞬記憶が飛んでしまったようだ。  

原因不明で倒れる人もいる。出張が続き疲労が溜まったMさんは、突然ゼーセーと苦しそうに塞ぎ込んだ。一緒にやっていた仲間がマッサージし始め、「大丈夫か?」と聞くが返事がない。一刻の猶予も許さない状況の中、誰かが「AED持ってこい!」と叫んだ。そうこうしている内に救急車が到着して運ばれて行った。ところが後で分かった事だが、原因は過呼吸だった。もしもあの時AEDで空気を送っていたら死んでいたかも知れない。素人考え程恐ろしいものはない!それを聞いて一同真っ青になった記憶がある。