Saturday 29 August 2020

水の一滴、血の一滴

今から40年以上前だったか、初めて行ったシンガポールで標語を見て驚いた。それは「水の一滴、血の一滴」だった。シンガポールの水は、当時からマレーシアのジョホールバルから輸入していた。今では安定供給され、WHOの基準でも世界一安全な水と評価されているが、当時は供給が不安定だった。

水は大事である。中国でも「黄河を制するものが国を制する」と宮脇淳子さんの本に書いてあった。あの黒ビールのギネスが成功したのも、水利権を得たからだ。年間45ポンドの9000年リースは有名な話である。ウィックロー山地から流れる水を、永遠にタダ同然で確保したのが成功の秘訣だった。水利権は時によって紛争のタネにもなる。最近でもナイル川を巡る対立で、上流にダムを持つエチオピアと、下流で水を待つエジプトとスーダンが対立している。ダムで水を貯えたい一方、砂漠で水を待つ方は死活問題である。

今一番気がかりなのは、中国の三峡ダムの水位である。三峡ダムは揚子江に注ぐ世界最大のダムである。長期の大雨で水位が上がり、暫く前から制限水位を超えている。放水が続いているが、もしも決壊すれば4億人の生活に影響するというので、国体をも揺るがし兼ねない事態になる。ソ連の社会主義はチェルノブイイの事故で瓦解した。敵は思わぬ所に潜んでいると思ったが、今回の自然災害もそれに似た側面を持っているので目が離せない。

Friday 28 August 2020

壊れたレコード

「明日の記憶」という映画があった。渡辺謙と樋口可南子が演じる夫婦に、認知症がやってくる話である。夫の記憶が怪しくなり、例えば会社の食堂で自分の席が分からなったり、取引先のアポを忘れたり、最後は妻も誰だか分からなくなってしまう。若い時に観たので、年を取るという事は恐ろしいと思った。

暫く前に出た文芸春秋にも認知症の特集があった。面白かったのは阿川佐和子さんの看病記だった。ボケと物忘れが出てきたお母さんを、お父さんの阿川弘之さんがよく叱咤したという。ただ弘之さんが亡くなると、お母さんの表情は穏やかになったという。ガミガミ言われている内に傷付いてしまったようだ。頭はおかしいが感情は残っているので、気を付けなくてはいけない。先日も久しぶりに旧友のT君に会った時、90歳を超えた母親の介護を嘆いていた。物忘れが激しく、財布や保険証を探すのが日常化していたり、出掛ける靴が左右違う靴だったり、賞味期限切れの食材を食べたり・・・。ある時ガスの火を消し忘れ、空焚きがあったのを見てゾッとしたという。流石に以来火を使うことは禁止したようだが、徘徊や詐欺など心配は尽きない。周りにも変だと思われる人が多い。まだ70歳のKさんは会う度に同じ話を繰り返す。「元気?この前山に行ってきました」と、それってこの前話したじゃない!と聞き流しているが、まるで壊れたレコードである。

そんなボケ人にイライラする対処法は、自分が最初にボケる事だと綾小路きみまろが言っていたが一理ある。ボケるのは必ずしも悲しい事ではない。記憶には楽しかった思い出もあるが、辛く痛ましい断片もあるからだ。そんな罪意識から解放されれば、誰でも気が楽になるというものだ。最近はそう思って、老いを受け入れてもいいかなと思うようになってきた。

Wednesday 26 August 2020

韓国はコリキスタン

「満洲国の真実」の中には、面白い話が沢山載っている。例えばジンギスカンの日本人説である。伊藤博文の娘婿だった末松謙澄という人が英語で書いた「義経再興記」である。オックスフォード大留学中の氏が、ジンギスカンは源義経だったという説を英語で出版した。本は日本に逆輸入され話題になった。アジアからヨーロッパまで取り巻きにしたのが日本人だった話には今でも血が騒ぐが、さぞかし当時の士気高揚が思い浮かぶ。氏は源氏物語の英訳出版も手掛けた文才で、後に法制局長官や逓信大臣になったというからマルチ人間だったようだ。そんな彼は最後はスペイン風邪で倒れた。
 
スペイン風邪は先日も池上彰さんの解説で紹介していたが、世界で5億人の感染者を出した。今回の新型コロナの比ではない。名前の由来は、スペインが第一次大戦の中立国だった処から、感染者の数が多かった為である。イギリス、ドイツなどの当事国は情報統制で数を抑制したからだ。
 
もう一つは朝鮮の立ち位置である。日露戦争で日本がもしも負けていたら、朝鮮半島はロシアの領地になっていた。それを称して、コリキスタン(Korikistan)と呼んでいたのには思わず笑ってしまった。コリキスタンになっていれば、ソウル市はソルストックだろう。確かに高麗人と呼ばれる朝鮮人は、今でも旧ソ連下のウズベキスタンに20万人、ロシアやカザフスタンに10万人強、キリギスに2万人もいる。日本からの出張者が、ロシアの山奥で日本人に似た人を見かけて驚く話は尽きない。満洲国を治めた日本人の多くも日本名の朝鮮人だった。そのため兎角言われる現地の悪行の数々も、実は抑圧された民族の反動だったり、確かに言われてみればベトナム戦争に派遣された韓国兵の蛮行はそれに繋がる。高麗人は長年シナやモンゴルの下僕だったようだようだし、韓流ドラマの派手な演出とは裏腹に、知れば知るほど冷ややかな気持ちになっていく。

Sunday 23 August 2020

大鵬とロシア革命

宮脇淳子さんの語り口には、なるほどと思う箇所がある。例えば歴史を古代、中世、近代などの段階で捉えるのが一般的だが、それはマルクス史観の影響だと言う。資本主義から社会主義を経て共産主義に至る論理はその典型で、分かり易いが実際は途切れない一本線である。いい例が平成から令和になった時、年号が変っただけで生活は連続していた。歴史をXX時代で整理するのは便利だが、一方で個別で普遍の現実を見損なうことになる。自身も永年この思考に馴らされてきたと反省した。

もう一つは日本人の自虐史観である。戦後の左翼の影響だろうか、未だに明治以降の歴史を否定する処から入るのが定石である。ただ丹念に事象を追うと、当時の日本人の判断は今と左程変わらない事に気付く。これは勇気のいる作業だが、出来ると過去と現在が繋がって元気が出て来る。

「満洲国の真実」の中に大鵬の話が出て来た。第一次大戦の末期にロシア革命が勃発し、赤白に分かれた内戦が始まった。日本はシベリア出兵で貢献するのだが、反革命派のロシア人が日本に亡命してきたので受け入れた。その中の一人が相撲の大鵬親子だったり、野球のスタルヒン、チョコレートのモロゾフだった。大鵬の父はコサック騎兵、日本人の母親と二人で船で日本を目指した。母親の船酔いが激しく、途中の稚内で下船したのが幸いした。船はその後襲撃を受けて沈没したという。大鵬は成長して相撲界を代表する力士になった。彼の数奇な運命を知り、当時がグッと身近になった。

Thursday 20 August 2020

李登輝と客家(ハッカ)

先日、台湾の李登輝元総裁が亡くなった。台湾を長年引っ張ってきた建国の父である。その昔著書の「武士道」を読んだことがあったが、日本人以上に日本的な人だと思った。台湾はある外交官が「骨を埋めてもいい国」と称していたように、日本から見ても親近感のある国だ。その架け橋の代表的な人だっただけに、惜しい人を亡くした。

ところで、そんな彼のルーツは客家(ハッカ)という。客家とはシナの少数民族で、世代に渡って移住を続けた処から”よそ者”の意味もあったという。先の宮脇淳子さんの本にも、その一人である孫文が出てきた。孫文は本土生まれだが、ハワイにいた兄を訪ねる処から海外生活が始まった。日本にも亡命し、その支援を受けて1912年には中華民国を設立するに至った。孫文は英語が上手かったがよそ者だったので、初代大統領は袁世凱に譲ったという。鄧小平も客家の一人という。ただこちらは中枢に上り詰めた。

調べてみると、客家は世界4代移民集団の一つだという。残りは有名なユダヤ人とアルメニア人、そして印僑であった。客家出身にはシンガポールのリークアンユーやタイのタクシンもいるから、今の華僑のルーツなのかも知れない。また印僑はインド系である。クイーンのフレディー・マーキュリーや米国連大使のニッキー・ヘンリーや今回民主党の副大統領候補に指名されたカマラ・ハリスもいた。外の血が混じると人は強くなるいい例であろう。

Wednesday 19 August 2020

悪夢の民主党時代

宮脇淳子さんの本が面白いので固め読みをしている。「中国と韓国の正体」を皮切りに、「朝鮮半島をめぐる歴史歪曲の舞台裏」を経て「満州国の真実」まで来た。豊富な知識と柔軟な語り口で、素人が十分楽しめる件になっている。昨今の韓国の反日や中国の覇権など、歴史を知ると池上さんの「そうだったか!」の発見に繋がる。一方、日本の過去の対応もまずさも目に付く。

その一つが民主党政権時の「朝鮮王室儀軌」の返還だ。野田政権が李明博に頼まれて特例として返した日韓併合時の資料である。一度許すと、今度はそれに乗じて返還運動が盛り上がったという。長崎の宝物殿から慶典が盗まれたのもその頃だった。尖閣もそうだった。石原知事が東京都に組み入れようとすると、当時の政権はあっさり国有化してしまった。今に至るパンドラの箱を開けたきっかけを作ったのはやはり民主党だった。素人集団は今から思えば恐ろしい限りである。安倍さんが”悪夢の時代”と言ったのはよく分かる。選挙の看板にしていた高速道路無料化はあっさり諦めたし、公共工事の象徴だった八ッ場ダム廃止も今回の台風で残しておいて良かったと証明された。蓮舫が頑張った仕分けも、長期の施策が毎年入札される事態になり、かえってコストが高くつく結果になった。

そう云えば、南京大虐殺の記念館の建設費用を出したのも日本社会党だった。いつの間にか犠牲者が30万人で今では40万人になっているらしいが、自虐的なツケは余りにも罪深い。宮脇さんは、歴史は日本ではヒストリーだが、中国ではプロパガンダ、韓国ではファンタジーと表現していた。その視点で読み解くと、隠れた過去が少しづつ見えてくる。暫くは氏の門下生になってみる。

Sunday 16 August 2020

ヨセミテ公園の流れ星

先日、東京からお客さんがやってきた。食事を終えて一段落した頃、「ちょっといいものをお見せしましょう!」と言って電気を消した。見上げると木立の間から満天の空が広がり、まるで宇宙と一体になったような空間が生まれた。星の名前は分からないが、大小数え切れない星座群に、一同暫しうっとりしてしまった。都会では中々味わえない自然は、やはり田舎ならではである。

あれは20歳の時だったか、アメリカをヒッチハイクで一周した事があった。まず最初に行ったのはヨセミテ国立公園だった。ロスアンジェルスから車を乗り継ぎ山に入った。当時はベトナム戦争の頃で、若者はヒッピーと呼ばれるスタイルが流行った。手を上げて車が止まるとそのヒッピー達が群がりいつの間にか仲良くなった。夕方になったので、彼らと川辺で泊まることにした。風呂代わりに真っ裸で川に飛び込み、アメリカ人の知人に貰ったシェラフに潜り込んだ。夏だというのに、歯がガチガチする程寒く中々寝付けなかった。ただ夜空は眩いばかりの星のパノラマだった。見ていると流れ星がスースーと数分おきに通って行った。あっ又通った!と見入った。

あんな光景は先にも後にも一度だけだけが、こうして星を見ていて思い出した。あれから何十年も経ったが、まるで昨日の事のようだ。

Thursday 13 August 2020

個別事例を公表する地方

早いものでもう暦の上では立秋、長かった梅雨が明けたかと思ったらもう秋だ。短い夏をせめて楽しみたい、そう思いながら長野の山奥で避暑している。8月なのにセミが鳴かないし、夕方から雷豪雨がやってくる。今年は変な天気が続く。

東京ナンバーの車だと冷やかな視線を感じる。先日もどこかの県でプレートが悪戯される事件があったが、あまり歓迎されていないので注意している。夕方のニュースで感染者が発表されるが、東京みたいに大雑把でなく、「事例XX番、XX町のXX才の男性」と個別に公表される。そのため地元の人なら誰だか直ぐ分かってしまうらしい。だから先日も、感染した年配の女性が嫌がらせを受け転居を余儀なくされたり、感染者の出た銀行のガラスが割られたりした。田舎の人間関係は密なだけに怖い。

それにしても、日本の国民はなんやかんや言っても、政府や知事の要請に良く耳を傾けていると感心する。テレビのコメンテーターも、「政府は何もしていない!」と批判する人ほど、国が何かしてくれるのを待っているから可愛い。会社勤めの人は帰省で何かあれば、隔離され会社を休まざるを得ない。人事評価にも影響するから従順である。感染予防の所々に、日本らしさを感じる今日この頃である。

Tuesday 11 August 2020

天皇と血のリレー

以前読んだ明治維新の本の中に、攘夷で有名な水戸の第11代将軍徳川斉昭に子供が54人いた話があった。彼の次男で将軍を継いだ家慶も34人いたとか、いくら世継ぎが大事だといえその数の多さに驚いた。

そんな中、大宅壮一の「実録・天皇記」を読むにつけ確信を得た。著者が調べた限りでは、第12代景行天皇が81人、第50代の恒武天皇が35人、第60代の醍醐天皇が38人、第90代の亀山天皇が36人等々、生涯をこの一点につぎ込んだのがよく分かった。子の数は生んだ側近の数に比例した。明治天皇の父の孝明天皇の子は6人だったが、妻を含めて17人の側室がいたという。勿論天皇を継ぐ子は一人だから、その他は出家に出された。寺や武家で第二の人生を送る運命は過酷だ。著者は御子様たちの生き方と称して、出家年齢と行先など事細かに調べていた。目に付くのは早世する子が多かった事である。明治天皇の子供は4人だが、最初は15人生まれた。間引きもあったし、子供の内に親と離れ寺に預けられれば精神的におかしくなった。著者はそれを女王バチと働きバチに比べていたが、驚くほどよく似ている。以前読んだ「昭和天皇の妹君」という本に寺に隠居した尼の話があったが、何も驚くことでない気になってきた。

改めて天皇制を考える。側室がいない(?)今の天皇家が先細りなのも当然だと思う。英国のヘンリー8世なんか、子供が出来ないと分かるとさっさと離婚して処刑し、次から次を娶る国もあった。どちらがいいのか分からないが、血を絶やさないのは並大抵ではない。著者の歯に衣を着せない表現は的を得ていた。例えば世継ぎを生む局(つぼね)を「天皇製造の女子従業員」、支える公家を「天皇に寄生する男子従業員」、「血のリレーと血の予備軍」など、とても戦後10年の作とは思えない。また共同作業した若き草柳太蔵氏が古本屋で資料を集めた件も面白かった。

Monday 10 August 2020

女は魔物

大学4年生の頃だったか、松本清張の「点と線」を読んだ。夜を徹して結末に近づいたのは未明だった。最後に犯人が明らかになった時、それが女だと分かってぞっとした記憶がある。すっかり主人公の男が犯人だと思っていただけに意外だった。それまで女(の子)は清純で笑顔が美しいと思っていたが、依頼、女は魔物で怖いという観念がどこかに住み込んだ。

その「点と線」だが、久々に読み返してみた。有名な4分間のアリバイ作りも去る事ながら、病床の妻が夫の愛人のカネまで工面し、最後は2人を殺してしまうストーリーが凄かった。堀辰雄の小説「菜緒子」も別居の夫婦をテーマにしていたが、こちらはもっと詩的で刹那的だった。今風に言うなら、調子に乗って遊んでいるうちに、長年の妻の憎悪と執念が爆発したという処だろう。

夫婦の関係は微妙なバランスの上で成り立っている。同じ浮気でも、東出昌大と杏みたいに離婚に至る事もあれば、中村橋之助と三田寛子のように許してもらえるケースもある。寛容な妻かと思っていると大間違いで、本心はどう思っているのか分からない。用心に越したことはない。

Sunday 9 August 2020

続ウィスキーガロア

ウィスキー評論家の土屋守さんの本に、ウィスキーガロア(Whisky Galore)の話が出ていたのでDVDを取り寄せた。

物語は第二次大戦下のスコットランドの島村である。ある日、島の近くでウィスキーを積んだ船が座礁した。アメリカ向けにウィスキー5万ケースが積まれていたので、島民は夜中に小舟を出して回収を試みた。持ち出したウィスキーは村中で隠し飲んで楽しんだ。ただ駐留のイングランド兵の監視があった。長年の両国の対立を象徴した設定だったが最後は事なきを得た。土屋さんが抱腹絶倒と評していた割には、平凡な物語だったのでちょっと期待が外れた。

ただスコットランドの田舎の風景が良かった。映画を見ていて、昔旅したスコットランドのスカイ島を思い出した。陸路で行ける島で、その時は島に唯一佇むタリスカー(Talisker)蒸留所を訪れた。寂しい場所だったが、碑に「ここで働く男たちは孤独と厳しい自然の中で生きるので、ユーモアが大事だ」と書いてあったのが印象的だった。スコットランド音楽もそうだが、その陽気さが人を惹きつける。