Monday 30 November 2020

ユタ州のモノリス

今月アメリカのユタ州の砂漠に、モノリス(Monolith)と呼ばれる銀色の金属板が建っているのが発見された。モノリスは映画「2001年宇宙の旅(2001:A Space Odyssey)」の冒頭に出てくる謎の金属板である。一体誰が何のために?ひょっとして宇宙人かも?と関心が集まった。現地の土地管理局は、自然環境に配慮して場所を特定されないよう努めたが、次第にそれも解明された。ところが先週それが突如消えてしまったという。地面にはタイヤの跡とBye Bitchなる走り書きが残されていたと言うので、誰かがトラックで持ち去ったようだ。

「2001年宇宙の旅」を観たのは1970年初めだった。モノリスから発する電磁波の次はサルが武器を知るシーンになり、最後は船長が宇宙で赤ん坊になってしまう全く理解不能のストーリーであった。観ていて何が何だかさっぱり分からなかったが、謎が謎を呼ぶ展開は逆に宇宙の神秘を掻き立てられた記憶がある。当時は2001年なんて遥か遠い未来と思っていたが、いつの間にか通り越して今では20年前の昔になってしまった。まるでタイムマシンに乗った気分だが、時間が経つのは恐ろしく早い。  

ところで今回の舞台になったユタ州の砂漠であるが、今一番行ってみたい場所の一つである。中でもジョン・フォードの西部劇に出てくるモニュメントバレー(Monument Valley)である。奇石に富んでいて、「駅馬車」「黄色いリボン」「イージーライダー」など沢山の映画のロケ地になった。映画のシーンと重ねながら、いつかドライブするのが楽しみだ。

Friday 27 November 2020

(小澤)征爾の由来

今年の子供の名前ランキングが発表された。一位は男の子が「蒼」、女の子が「陽葵」という。以下男の子は「樹」「蓮」、女の子は「凛」「詩」と続く。読み方は2文字が多く、世相を反映しているらしい。何か芸能人や漫画の主人公のような名前にも聞こえるが、もう若い人のセンスには付いて行けない。

昔は漢字の画数が縁起のいい数字になるように組み合わせたり、偉い人の名前から一文字拝借するのが流行った。尊敬する偉人とか、身近な人に「子供に一字を頂けますでしょうか?」とお願いした。先日歴史書を読んでいたら、指揮者の小澤征爾氏の話が出ていた。彼の父親は満洲で歯科を営んでいた関係で、生まれた子供(征爾)に二人の軍人から一文字づつ借用した。一人は後の陸軍大臣の板垣征四郎、もう一人は有名な陸軍参謀の石原莞爾であった。征爾はいい名前だと思っていたが、満洲の縁から来たとは知らなかった。

字は体を表すという。いい名前だな!と思うと、人柄もそれ相応に映る。命名は大事だ。

Sunday 22 November 2020

大人になった紅衛兵

今から40年近く前に出版された、「中国人(Alive In The Bitter Sea)」という本がある。著者はタイムズ誌のジャーナリストだったフォックス・バターフィールド(Fox Butterfield)である。氏はハーバードを出てフルブライト留学生として中国に学んだので中国語が話せる。その才能を生かして文革後の中国を取材したのが本著である。当時はまだ中国が大国ではない頃だったが、想像を絶する過酷な世界に痛く衝撃を受けた記憶があった。

最初に読んだのは80年代半ばだった。当時は毛沢東が死んで鄧小平が経済を大きく伸ばしていた頃だった。中国はまだ貧しく、駐在で赴任した人は日本からの出張者の持ってくる食料品を楽しみにしていた時代だった。その本は埃を被り昔のアルバムのように本棚で眠っていた。それを最近読み直してみた。相変わらず著者の語学を生かした情報収集力に感心したが、中国は今も昔も同じだった。例えば中国には都市と農村の2つの中国がある事、人々は単位と呼ばれる所属に縛られる事、賄賂が公然と通用する事、人々は官僚主義の権威に弱い事、外国人はスパイである事、チベットやウイグルの少数民族の労働改造等々。痛々しいのは香港の話だ。当時は英国領だったので、難を逃れて逃げ込む中国人が多かった。せっかく海峡を渡り香港人になったが、皮肉な事に又中国人に戻ってしまった。  

怖いな!と思った話は子供の命名だ。李家の親は中国を愛し、中国人民を愛し、共産党を愛する意味で、長女に李愛国、次女に李愛民、三女に李愛党という名前を付けた。ところが最後の文字を繋ぐと国民党になるので親が逮捕されたという。もう一つ、ハッと思ったのは文化大革命の時に登場した紅衛兵である。ブルジョワと称する知識人、親、仏像を否定し破壊した彼らは、満足に教育を受けないまま大人になった。彼らの密告で多くの人の財産が没収され仕事を奪われた。文革は1966年から10年続いたので、当時の小中学生は今では50~70歳代になっているはずだ。中国はその後大きく経済が発展し今やGDPは日本の3倍にもなった。ただそんな社会の中枢は、元紅衛兵なのである。

Friday 20 November 2020

神楽坂の静かな店

コロナ感染者数が東京で500人を超えるなど、いよいよ第三波が来たのだろうか?会食中もマスク着用して小声で話すなど、段々注文が多くなっていく。仕方がないと思う一方で、やはり不自由さは歪めない。ただものは考えようで、本来静かに飲んで食事するのは快いものである。逆境を逆手にとって快適な空間造りに励むと、新たなビジネスが生まれるかも知れない。

思い出すのは、昔よく通った神楽坂の「伊勢籐」である。伊勢籐は毘沙門天の前の路地を入った古風な一軒家である。暖簾を潜ると明治にタイムスリップしたような気分になる。店内では、囲炉裏で熱燗を浸けている。それが何とも風情があるが、お通しも酒2合程度に合わせて小鉢で運ばれてくる。店内はとても静かで、客同士は遠慮してヒソヒソ話をしているようだ。それもそのはず、大きな声が聞こえると店主から注意されるからだ。ただでさえ神楽坂は高台なので都会とは思えない静寂さがある。店はそれを上塗りするようで、訪れた客はその余韻を楽しんでいる。静けさは格式ある酒の嗜みを生む。話題も自然と高尚になり、酒飲みが文豪に変貌していく。特に神楽坂は泉鏡花や永井荷風と関係が深いから、題材には事欠かない。 

静けさが心いいのは温泉も同じである。多くの人が入っていても、話し声が止む一瞬があると湯の流れる音が耳に入る。変化はチャンスともいうから、この際この静けさが商売になるといいのだが・・・。

Monday 16 November 2020

便利なAirbnb

竹中平蔵氏の「この制御不能な時代を生き抜く経済学」は、相変わらず歯切れのいい本だ。聞いていて成程と思う話が多い。例えば相続税は二重課税と言う。確かに生前に一度課税されているので、氏の言う通り憲法違反の可能性もある。イタリアやシンガポールなど相続税がない国は多いし、アメリカも基礎控除が12億円というから殆どないに等しい。また外国人旅行者を充て込んだ民泊が始まったが、旅行業界への配慮で、年間の日数規制が出来た。本来は自分の家をどう使うかは家主の自由だから、確かに変な制約だ。

本は2年前に出版されたが、その後実用化された案件も多く、世の中が凄いスピードで進んでいる事に気付く。例えばUber Taxiである。まだ使った事はないが、2年前は竹中さんも日本のアプリが入ってなかったので(海外で)使えなかったようだ。またAirbnd(Air B&B)の民宿システムも始まった。今年に始め、オーストラリアに行った時、このAirbnbを使ってその便利さを知った。使い方は極めて簡単で、サイトの写真を見て、ロケーションとコストを考えて選ぶのだが、日程と宿泊人数をオーナーに連絡すると、直ぐに返事が来た。そして「何時何時までに宿泊代金を払って欲しい」と聞いて来る。今回使った部屋は2LDKで、綺麗なダブルベットとクーラーがあり、キッチン、大きなソファーも付いて一泊4000円程度だった。ホテルに泊まる事を考えると1/2~1/3程度で済んで助かった。おまけに共用スペースはシェアするので、思わぬ出会いにも恵まれたり、すっかり気に入った。 

その他、ナショナルフラッグの競争にはANA とJALの統合がいいと言う。確かにスウェーデンのSaabは破産し、Volvoは中国の吉利に売却した事を思うと、不採算な準国営企業を持ち続けるのは国民経済的にも問題なのかも知れない。ただ氏は兎角アメリカ的な強者の論理で、弱者と言われる非正規社員を生んだ権化の印象もあるから鵜呑みには出来ないが、昔から今日まで第一線を歩いている人だけに、その知識と情報の豊かさには感心する。

Friday 13 November 2020

希望の電池

アメリカ大統領選挙では、バイデン氏が過半数を取って勝利宣言をした。ただトランプ氏は敗北宣言を出していないどころか、これから法廷闘争に持ち込むという。傍から見ると無謀に見えるが、その戦略は何なのか?怪しげなサイトに、量子金融システム(QFS: Quantum Financial System)の話が出ていた。それによると、投票用紙には暗号番号が搭載しており、一枚一枚追跡が可能だという。日本の一万円札の透かし技術を使っているらしい。つまりおとり捜査の一つで、先に犯罪を誘発し後からその悪事を暴く仕掛けらしい。どこまで信じていいのか分からないが、不正が集計があったとするとどんでん返しが待っている。
 
そんな事を尻目に、バイデン氏は早速コロナ感染対策のチームを立ち上げようとしている。遅きに失しているかも知れないが、当然と言えば当然である。コロナの疫病は人と人に距離を遠くし、人間社会の活力をどんどん削いでいるから早い方がいい。リモートワークは感染予防になるかも知れないが、肌感覚に欠けるから事務的で付加価値を生まない気がする。ソーシャルディスタンスで会話してもよく聞こえないし、ビニールのカーテンは人間関係をも遮断する。コロナの疫病は想像力も奪うので、希望の電池が段々減って行くようで気掛かりだ。

 先日CNNのニュースに、イタリアの村で住民の誘致をしている話が出ていた。場所はローマの東北にあるサント・ステファノ(Santo Stefano)という村であった。1200mの高台には100人程度の人が住んでいるが、村は過疎化しているので、移住くれる人に空き家を1ユーロで提供するという記事だった。勿論行った事がない村だったが、山岳地帯で夏なら涼しいそうな場所だった。一昔前ならこうした話題に旅愁を誘われたが、今ではただのさえひっそりした村を思い浮かべてしまう。コロナは今の仕事ばかりでなく、夢やロマンも奪い始めている。

Tuesday 10 November 2020

仲よき事は美しき哉

先日、とあるご夫婦と一緒にゴルフラウンドした。歳は60台半ば位か、とても仲のいい夫婦で二人の弾む会話が尽きないのである。奥さんがパットする時もご主人が目指す方向に立ったり、いいショットが出るとさり気なく褒めるのも欠かさない。子供の頃流行った武者小路実篤の「仲よき事は美しき哉」の言葉を思い出した。ありふれているが、やはり他人の幸せな姿に接すると諭されるものだ。

何年か前だったか、同僚のAさんは羽田から関西に飛行機で行った。その時隣り合わせた夫婦がいて、北アルプスの上空に差し掛かると、ご主人が奥さんに「あれが奥穂であっちが北穂」と解説していたという。Aさんはその教養と趣味の豊かさに打たれ、「横で聞いていて羨ましかったです!」と話していた。Aさんも自他ともに認める愛妻家だけに、その時はその辺の機微に敏感なのだろうと思った。 

かと思えばその反対もある。昔よく通っていた渋谷の居酒屋は親子喧嘩が尽きなかった。年老いて痴呆が出始めた親父に向かって、息子がよく叱咤していた。一緒に厨房を切り盛りしていたから注文でも間違えたのだろう、その大きな声が聞こえてくると、自分が叱られているようで嫌だった。自ずといつの間にか、その居酒屋から足が遠のいてしまった。アメリカ大統領選挙でも、バイデンの夫婦関係はトランプ夫妻を凌いでいたように見えた。バイデン夫人は飛び掛かろうとする群衆に身を張って夫を守った一方、トランプ氏が手を握ろうとすると何度も振り切るメラニア夫人、テレビはその映像を伝えていた。その差が選挙結果にも出たような気もする。

Friday 6 November 2020

大統領選挙と内戦の危惧

アメリカの大統領選挙が混乱を極めている。選挙が終わったというのに、まだ大統領が決まらない異常事態だ。バイデン側は勝敗を決める270議席に近づいたので勝利を確信しているが、トランプ側は郵便投票の開票を巡り不正が働いていると裁判に持ち込む構えである。このまま行けば新大統領が決まらないどころか、二人の大統領が生まれることになるのだろうか?マスコミは連日、その対立と分断がアメリカを二分していると警戒感を露わにしている。

テレビのニュースを見ていると、支持者の中に武装した民兵みたいな一派がいた。銃社会のアメリカらしいな!と思ったがやはり物騒な風景である。両派の撃ち合いが始まれば正に内戦である。アメリカは160年前に南北戦争があった。英語では内戦(Civil War)というから猶更だ。南北戦争はアメリカの独立を締めくくる大きな出来事だった。象徴的なのは奴隷制の解放だったが、根っこは労働集約的な南部と資本集約的な北部の経済対立が原因である。今回はそこまで行かないにしても、白人社会の経済回復を焦点にしている点では似ている気もする。

4年間続いた内戦では、双方の死者は60万人に上り、市民も入れると90万人にもなった。これは第一次大戦の死者が11万人、第二次大戦が29万人だった事を思うと大変な数字である。アメリカは人種のるつぼだから対立が生まれ易い。今の時代にまさか内戦は起きないだろうが、過去に大きな犠牲を払って誕生した国だ。その教訓が生きてくれればいいが・・・。

Thursday 5 November 2020

59万円のコート

友人との食事会があったので、銀座に行った。コロナで外出を控えていたので、都会に出るのは久しぶりである。銀座は外国人観光客が減ったとはいえ、相変わらず人出は多かった。それにしても、わざわざこんな所まで買い物に来る人の気が知れない。食事までまだ時間があったので、折角なので三越を覗いて見ることにした。一階の化粧品コーナーはビニールが貼られ、随分と風景が変わってしまったが相変わらず活気はあった。
 
ふと大きな鏡の前を通ると、鏡に映る自身の姿が映った。久々に都会で見る自分の姿は、何かみすぼらしく周囲の景色にマッチしていない感じがした。暫く外出しない内に、着ているモノが古くなったのだろう。「俺って浮いているな!」と認めざるを得ない。「だったらこの際新しい服でも買ってみるか!」、そう思って紳士服のコーナーに足を運んだ。行ってみると昔から馴染みのあるMcGREGORやHenry Cottonはなく、TheoryやBlack Lavelなど初めて聞くブランドばかりである。戸惑いながら、どれを見ても今の自分には似合わない気がした。ただ一点センスのいいジャンパーコートが目に留まった。「これだったらいいな!」と、店員に頼んで試着させてもらった。ところが値段を聞くと「59万円です!イタリア製ですので」とさり気なく言うではないか。これには流石ビックリした。因みに横にあったセーターを聞くと、「12万円です。カシミア100%です」と畳みかけられた。もうこうなると退散するしかなかった。  

帰り道、新宿の紀伊国屋に寄った。「何か面白い本がないかな?」、そう思って見渡したが、これも空振りだった。コロナで思考が停滞しているせいか、将又自身の好奇心が希薄になったせいか分からないが、読んで見たい本がないのは寂しいものである。何か肩透かしを喰らった気分で地下通路を歩いていると、人だかりが出来ていた。見ると壁に貼った漫画を若い人が見ている。近くの若い二人連れに「これって有名なのですか?」と聞いてみると、「ハイ!今日このハイキューの最終巻が出たんです!」と教えてくれた。今話題になっている鬼滅の刃もそうだが、若い人の世界は知らない事ばかりだ。都会はもう若い人と一部の金持ちの場所になっている。

Tuesday 3 November 2020

晩秋の蕎麦

秋も深まり、新そばの季節がやってきた。先日も信州の田舎で、打ち立ての蕎麦を味わった。寒かったので掛け蕎麦にしたが、何とも言えぬ甘さが伝わり美味かった。ただフグ料理もそうだが、味は淡泊だから半分は食感や季節感を楽しんでいるのかも知れない。そんな繊細さを好むのはやはり日本人なのだろう。昔、来日したドイツ人が「蕎麦を食べた事がない」と言うので、蕎麦屋に連れて行った事があった。味のしないジャパニーズヌードルを食べ終わると、キョトンとした顔が達成感の無さを物語っていたのが印象的だった。

その蕎麦に魅せられる人は多い。後輩のY君も自宅に蕎麦打ちセットを買い込み、週末ともなると熱心に打っていた。一度ご馳走してもらったが、中々上手く出来ていた。そんな趣味が高じてその道を歩む人もいた。テニス仲間のSさんは、ある時仕事を投げうって念願の蕎麦屋を開いた。パートナーと称する相方の女性と二人三脚で、朝から仕入れに余念がなかった。店は繁盛したが、いつの間にか忙しくてテニスも止めてしまった。最近は会っていないが、趣味が仕事になって後悔していないか心配だ。 

蕎麦屋はそのシンプルさが何ともいい。東京だと「かんだやぶそば」や「神田まつや」、荻窪の「本村庵」の老舗は気に入っている。掃除の行き届いた店内に入ると背筋が伸びるから不思議だ。「かんだやぶそば」の昔ながらの呼び込みも風流だし、「神田まつや」の卵焼きは絶品だし、「本村庵」の冷酒剣菱が何とも蕎麦に合う。最近では信濃追分の「きこり」や「浅間翁」、中軽井沢の「かぎもとや」に良く足を運んでいる。