Saturday 29 October 2022

習近平と父の失脚

中国共産党大会が閉幕し、習近平が三期目に入った。側近をイエスマンで固め、盤石の独裁体制という。敵を排除しても所詮人間の集まりだから、また時間が経てば新たな権力闘争が始まるかも知れない。

そんな彼は強さへの拘りが大きいという。それは父の失脚で16歳で下放した体験から来ると言う。

最近出た中公新書の熊倉潤氏の「新疆ウイグル自治区」を読んでいたら、父の習仲勲(シューチョンクン)の失脚の話が載っていた。当時ウイグル地区の第二書記だった彼は、遊牧民への過激な鎮圧に慎重で穏健化策を訴えた。そしてそれから10年程経つと文革が始まり、その時の発言が「資本主義の復活」として断罪された。失脚した時は国務院の副経理というからかなりのトップだった。 

中国共産党の怖いのは、タンアンという制度である。個人の思想言動を貯め込んだがファイルである。永遠に保管されるので、政局の風が変ると全く反対の意味になってしまう。この習仲勲の場合も、文革という大きなうねりが災いしたようだ。 

最近のウイグル自治区で起きている様々の暗いニュースも、まさか父親の名誉回復を意識している訳ではないだろうが、ついそれと結びつけたくもなってしまう。

Saturday 22 October 2022

ストックフォルムシンドローム

フレデリック・フォーサイスの「The Kill List」は、テロ犯の暗殺計画を題材にしている。タリバンやアルカイダに対し、CIAやモサドの支援を得た特務員が立ち向かう話である。 

舞台はソマリアやパキスタンで、馴染みのないアラブの地名に今一距離感を感じてしまう。ただ米議員が暗殺されたのがヴァージニア州のPrincess Ann Golf Clubであった。3年前にこの辺りを旅した時、近くのヴァージニアビーチで銃乱射が起きて13名の犠牲者が出た。偶然かも知れないが、その事件と重ねて親近感が出て来た。

小説の中で「ストックフォルムシンドローム」が出て来た。聞き慣れない言葉だが、誘拐した犯人と人質が一緒に過ごす間にフレンドシップな関係になる現象である。ソマリアの海賊が船を乗っ取った時、その船の船長と長時間過ごす内に、一体感が生まれる場面で使われていた。 

そう言えば、SNSで知り会った男と家出の少女が一つ屋根の下で暮らす内に、不思議な関係になるのもそれかと思った。また改革を掲げて当選した議員が、中枢に入って権力を持つようになると、人が変るのも似ている。

 本の中ではテロリストをPreacherと呼んでいた。直訳すればコーランの伝道者という意味だが、アラーの神の布教を世界的なネットワークで拡散する凄さにも感心してしまう。

Monday 17 October 2022

杉村太蔵の軌跡

TVによく出て来る杉村太蔵さんは、歯切れがよく軽妙な話しぶりがいい。持ち前の明さと旺盛な好奇心は、次は何を話すのかとつい耳を傾けてしまう。

そんな彼が世に出たのが2005年の衆院選挙だった。小泉旋風でまさかの当選を果たした。「国会議員の給料が2500万円!」「料亭に行きたい」など、数々の軽口は人々の共感を得たりした。ただそこに至るまでの軌跡も中々興味深い。
 
彼の出発点は高校時代にテニスで国体優勝だった。それが縁で筑波大の体育科に入学、祖父が弁護士だったので自分も司法試験を目指したが失敗、時は就職氷河期で仕事に恵まれずビルの清掃員になった。そこで同じビルに勤めるドイツ人に出逢い、晴れてドイツ証券に入社した。仕事で纏めたのが郵政民営化のレポートだったが、それを基にして自民党候補に応募すると採用されて・・・と。 その偶然の連続人生に、つくづく人はご縁ご縁で生きていると思うのであった。

最近では投資家として成功して、噂ではひと財産を築いたようだ。そんな事もあってどうやって蓄財したのか?彼の著書「稼ぎ方革命」を読んでみた。それは小宮一慶氏の教科書通りに企業分析する、意外と地味な手法だった。よく勉強した跡が伝わってきて、お金に苦労した中から編み出したのもよく分かった。

まだまだ若いから、これからの軌跡が楽しみだ。

Sunday 9 October 2022

サハラ砂漠のロマン

随分前にクライブ・カッススラーに凝った時があった。主役のダーク・ピットは英知に富んでいて、次々と難破船を発見する活躍は爽快だった。その彼の代表作が「Sahara(死のサハラを脱出せよ)」であった。サハラ砂漠の地下水路を使って脱出する迫力満点の物語だった。映画化もされたがこちらは大失敗で、著者は作品を二度と映画にしなかった。

一方サハラ砂漠を舞台に高い評価を得たのが、ハンフリーボガードの「Sahara(サハラ戦車隊)」と「Rommel Calls Cairo(ロンメルの密使)」であった。特に後者はリビアからカイロに入る広大な砂漠走破劇で見所満載だった。サハラ砂漠はアメリカ合衆国並みの広さと言われるが、その大きさが伝わってきた。

そしてやはりサハラ砂漠の横断をテーマにしたのが、例のケンフォレットの新作「Never」であった。それも使われたのは乗り合いバスである。本の中でも一番ハラハラする箇所だが、チャドから移民の女が幼子を連れて、リビアのトリポリを目指す設定であった。

ブローカーに1000ドルを前払いし、ところが2週間して着いたのは砂漠の中の鉱山だった。その時は初めて騙されたと知るのだが、そこは北朝鮮の金鉱山であった。北朝鮮は暗号通貨やハッキングで犯罪やりたい放題だが、こんな所にも資金源があったようだ。 

サハラ砂漠はサンテグジュペリの「星の王子様」の冒頭にも出て来た。行った事がないだけに、聞いただけでついロマンを掻き立てられてしまう。

Thursday 6 October 2022

素人判断にはご注意を

暫く前から運動をすると、直ぐに息が上がるようになってきた。テニス仲間に相談すると、「ジョッギング足りないんだよ!スポーツ心臓を大きくしないと!」と言われた。確かに最近はあまり走ってなかったな、と反省してジョッギングを始めた。ところが100mも走ると直ぐに苦しくなってしまう。歳もあるが何か変だと、念のため一度医者に行ってみる事にした。

幸い近所に立派な循環器の病院があったので診てもらった。そしてCTを撮ると、その場で「直ちに入院してください」になってしまった。どうやら肺に繋がる動脈に大きな血栓が見つかったようだ。先生から「手遅れになると命に関わります」と脅された。

幸い薬治療が功を奏し一週間で退院となったが、思いもしない展開であった。それにしてもあのままジョッギングを続けたら、それこそ突然の梗塞に見舞われたかも知れないと青くなった。やはり素人の判断は危ない。 

 随分前になるが夏の暑い日、テニスコートで仲間のMさんが突然倒れた。まだ40代の人だったが、突然呼吸困難に陥ってハーハーと苦しそうだった。周りにいた仲間が集まり心臓マッサージを始めた。誰かが「AEDはないか!」と叫んだ。「もっと大きく息を吸って・・」を繰り返したが、このまま酸素不足で死んでしまうかもと思った。

幸いそうこうしている内に救急車が来て、何とか一命を取り留めた。ビックリしたのは数日経った頃である。元気になって戻って来たMさんから意外な報告があった。何と病状は過呼吸だったいう。空気の吸い過ぎなのに、あの時皆が集まってやっていたのは全くその逆だった事が分かった。AEDを使っていたら致命傷になったかも知れない。それこそ青くなるどころか聞いていてヒア汗が出た。 

最近は集まると健康と病気の話が多い。くれぐれも素人判断には気を付けたい。

Wednesday 5 October 2022

殺しのテクニック

ロシアでオリガルヒが謎の死を遂げている。銃による自害やビルから転落などその不審死に、秘密警察の影が浮かんでくる。 政敵をどう追い込むか、そのテクニックに迫ってみた。

その一つが捏造である。いい例がスターリンの後継者争いであった。後継の最右翼はNO2のぺリヤだった。彼は秘密警察のトップだったので、フルシチョフなどライバルのファイルを持つ有利な立場にあった。その彼が失脚したのが国家反逆罪であった。罪状は西側との陰謀とスターリンの葬儀時の民衆への発砲だった。どちらも謬説だったが、これが元で即処刑となった。正にミイラ取りがミイラになってしまった。

そういえば反スターリン派や最近の反政府運動の取り締まりも、殆どがこの手口が使われている気がする。伝統的というか、ロシアという国の持つ陰湿な閉鎖性から来るのかも知れない。 

もう一つは緻密な計画性である。フリーマントルの「別れを告げに来た男(Goodbye to An Old Freind)」を読んでいたら、そのいい例が出ていた。物語はソ連の宇宙開発のトップが英国に亡命する話である。彼(亡命者A)の口を如何に封じるか?KGBが考えた作戦は、もう一人の同僚Bを偽亡命させAの居場所を突き止める事だった。英国に入ったBは、Aとの面会を通じて場所の特定に成功した。手法はその晩に見上げた夜空の星だった。宇宙の専門家ならではの天体観測技術だった。Bはその後亡命を取り下げ帰国、Aは刺客によって抹殺された。 

それにしても、ゼレンスキーはプーチンの放った刺客からよく身を守っていると感心する。段々現実と小説が入り混じっている今日この頃である。

Monday 3 October 2022

心配される報復

ロシアがウクライナ4州の併合を宣言した。インチキ選挙で住民支持も取り付けた。これからウクライナ住民の徴兵も始まるようだ。同胞に銃を向ける心境は想像してだけで過酷である。

ただ同じような事は今までヨーロッパでは幾つも起きた。典型的なのはフランスのアルザス地方である。ライン川を挟んでドイツと国境を隔てる一帯は、第二次大戦でドイツ領になったがその前はフランス領だった。更に昔はドイツ領と二転三転した因縁の地である。  

随分前だが現地を訪れた時、若いガイドが「父はフランス軍で祖父はドイツ軍として戦った」と話していたのが印象的だった。

 今回も問題は振り子が戻った時である。仮にクライナが奪還に成功すれば、ロシアに協力した現地のウクライナ兵士をどう扱うのか?嘗てのバルト三国やバルカンの小国でもそうだったが、トレイターへの報復が心配される。

 行くも地獄、戻るも地獄とはこの事である。戦争の悲惨さはこうした同胞の分断を生むから怖い。

Saturday 1 October 2022

核攻撃が始まると

欧州では2035年迄に、全ての自動車をEV化すると言う。 アウディの担当者が「もはやEVを買うか買わないか」ではなく、「何のEV を選ぶかの時代になっている」と話していたのが印象的だった。 

それに準えると、Ken Follettの新作Never は「もはや核戦争を如何に防ぐかの時代」ではなく、「始まった場合に如何にして勝利するかの時代」になっている事を諭してくれる。

物語は北朝鮮の食糧不足から始まる。我慢の限界を超えた北は南に打って出る。まず軍事施設のあるチェジュとSino-riをミサイル攻撃する。南も直ぐに体制を整え平壌に向い朝鮮戦争が再発する。

非常事態に日本も海上自衛隊が尖閣に入るが、中国を刺激して壊滅させられる。それが日米安保のトリガーとなって、米は中国の空母福建を撃沈する。 そうこうしている内に、北は核爆弾をソウルと釜山に落とす。広島長崎以降の初めての核使用であった。これに対し米も北の基地に核を落とす。これで終わりかと思っていた処、今度は中国がハワイに向けて核弾道を発射する処で終わる。

 やればやり返すのが喧嘩である。国同士も初めは同じ数の犠牲を強いて警告するが、一度力の均衡が崩れると益々疑心暗鬼になるようだ。憲法改正の論議もいいが、こうした現実的なシミュレーションをすると目が覚めるのである。