Wednesday 30 August 2023

チャイコフスキーとウクライナ

ワグネルのプリゴジンが殺された。6月の反乱以来その消息が途絶えていたが、やはりプーチンが許さなかった。改めて政敵を容赦しないロシアの風土を感じた。思えばイワン雷帝、ピョートル大帝も凄かったが、スターリンに至っては4000万人も粛清したというから今更驚く事ではないのかも知れないが。

太平洋戦争末期の記憶からも、ロシア人は野蛮というイメージがある。ただ一方でトルストイやソルジェニーツィンなどを読むと彼らはとても人間的だし、チャイコフスキーの美しい旋律からは想像出来ない。やはり1%の独裁集団が富の50%を握っている国だから、独裁者と民衆は別物と考えた方がいい。 

 そのチャイコフスキーだが、先日弦楽四重奏1番の2楽章を聴いた時、その曲が彼のウクライナ旅行の際に出来た曲だと知った。甘く子守唄のようなメロディーは、今のウクライナの悲劇とも重ねると切なく聞こえた。

 チャイコフスキーは生涯独身だった事もありよく旅をした。エストニアのハプサルというバルト海に面した町があるが、毎年夏になると彼は汽車に乗ってやってきた。バルト海は波がないので死んだような海の景色だが、そこで生まれたのが何とあの「白鳥の湖」だった。これは2011年7月22日に「白鳥の海」と題しこのブログで書いた。あれから大分月日が経った。


Saturday 26 August 2023

慶應の優勝

甲子園の夏の大会で慶應高校が優勝した。107年ぶりというが、その頃生きていた人は居ないから殆ど初優勝みたいなものだ。甲子園に出れるだけでも大変なのに、準々決勝、準決勝と勝ち進むうちにひょっとしてと思い始めた。一段一段階段を登って来た感覚だけに、感慨も一入である。

話題になったエンジョイベースボールだが、昔から野球に限らず非難する人は多かった。私の場合はテニスだったが、まず勝つ事が大事なのに楽しむとは何事か!と言われた。今から思えば、ゴールは同じなのに表現の仕方が気に食わなかったようだ。

 見ていて快かったのは選手の笑顔だった。仙台育英もそうだったが、失敗しても笑い飛ばしていた。未だにテニスでミスをすると、組んだ相手に「すみません」と謝るのが決まり文句になっている。今更どうしようもないが、その呪縛から抜け出せた人は生き生きしていた。今の若い人が羨ましくなった。 

 コーチの存在も大きかった。大学の体育会でレギュラーになれないと、学連や高校のコーチに就く人が多い。そこで腐ってしまうと思いきや、監督の森林さんのようにその道を極める人が実に沢山いると知った。組織力というか、勝因はアルプススタンドの応援だけではなかったのだ。 

 最後に気になったのが選手のプライバシーだった。連日TVに映し出され紹介されていたが、所詮は子供である。試合が終われば又学校に帰って普通の生活が待っている。マスコミもその辺十分気を付けてもらいたいと思っている。

Tuesday 22 August 2023

ガヴローシュの閉店

ロンドンの老舗フレンチレストラン、「ラ・ガヴローシュ(La Gavroche)」が来年1月で閉店する事になった。シェフのミッシェル・ル―Jr.は当年63歳、BBCの料理番組でも活躍し、ロンドンマラソンにも13回出場すスポーツマンである。

レストランは67年前に彼の父が始めた。ミッシェルはその2代目としてミシュラン2つ星を獲得するなど正に脂がのっていた。その彼が仕事と家族のバランスを考え、特に後者との時間を余生に充てる事にした。絶頂期の引退だけに惜しまれる一方、その生き方が共感を呼んでいる。

 弁護士や会計士、医者もそうだが、終身働き続ける人は多い。そういう人に会うと必ず「仕事は健康に資する」と諭される。確かにそうかも知れないが、最近では「そうでない時間も奥深い」と秘かに思っている。 

 処で先の店の名前のガヴローシュは、レ・ミゼラブルに登場する少年に因んでいる。腹黒いテナルディ夫妻の長男として生まれた彼は、親の愛を受ける事なくパリの路上生活に入る半ば孤児であった。物語ではジャンバルジャンを探しに潜伏していたジャヴェール警部を見つけ出すなどの活躍をするが、最後は市街戦の流れ弾に当たってしまう。

店には行った事はないが、料理にシェフの人間味が伝わってくるような感じがする。

Sunday 20 August 2023

松代の大本営地下壕

今週は78年目の終戦記念日だった。最近は気のせいか随分と静かになって来たが、それでも1週間程前から映画「日本のいちばん長い日」に準え、当時の御前会議や宮中クーデターに思いを馳せた。

戦争を始めるのも大変だが、終わらせるのはもっと難しい。今更だが決断来て本当に良かったと思う。ただもっと早く終わらせる事は出来なかったのだろうか?最近ある話に出逢って余計その念を強くしたのである。

それは松代の大本営跡に行った時だった。今回で2回目の訪問になったが、本土上陸が迫る中、天皇一家を疎開させるべく、松代に作った大地下壕である。全長10㎞に渡り完成すれば1000人が暮らせる地下都市である。60万人が工事に携わり、慰安所もあった。

今回驚いたのはその地下壕と沖縄戦の関係であった。地下壕の建設は1944年10月のサイパン陥落がきっかけになって始められたが、その工事完成までの時間が必要だった。沖縄戦はその時間稼ぎだったという。

それを知って唖然とした。戦争末期の軍は完全に常軌を逸していた。あと1年早く終戦していたら、広島、長崎だけでなく日本の地方都市が昔のまま残ったかと思うと猶更である。

 処で日本では終戦記念日というが、ロシア、中国、イギリスも戦勝記念日になっている。日露戦争や日中戦争の戦勝記念日はないから何か不快な感じがするが、負けたから何も言えない。ただオーストラリアの追悼日(ANZAC Day)の4月25日は敗戦記念日である。第一次大戦で豪NZ連合軍がガリポリに上陸して敗れた日である。中にはまともな国もある。

Tuesday 15 August 2023

孤児のトラウマ

随分前にルーマニアを旅した時、首都のブカレストは治安が悪いので気を付けろと言われた。原因はストリートチルドレンと云われる孤児であった。チャウシスクの時代に出生率を高めようと、中絶・避妊を禁止した結果、急増した子供達であった。

彼らは初め孤児院に入れられたが、チャウシスク時代が終わると路上に溢れマンホールなどで生活していた。その子供たちがその後どうなったか知る由もないが、子供の頃の記憶はトラウマになるから、社会の不安定要因になっているのだろう。

そんな事を思い出したのが、シドニー・シェルダンの「Angel Of The Dark」であった。物語は金持ちの男が次々と殺害されるが、妻は暫くして姿を消す奇妙な事件だった。残された多額の財産も、妻は孤児院に寄付するのでカネ目的の事件とは思われなかった。

やがて犯人が捕まるのだが、彼の動機は子供時代に父親から捨てられた恨みだった。彼はその復讐に、孤児院時代に知り合った女を金持ちの元に嫁がせ、入念に殺害の準備に入るのであった。 

シドニー・シェルダンの小説は途中までとても面白いのだが、オチが今一である。今回も実際そこまでするか?と思う節があったが、ユダヤ人の描く人間関係は相変わらず蘞(えぐ)かった。

同じパターンの殺害をアメリカ、英国、フランス、香港、インドで繰り返す。そんな展開は欧米人にしか書けないスケールがある。

Saturday 12 August 2023

マウイ島の火災

世界中で熱波の火災が起きている。昨年はオーストラリアが、今年はイタリアやスペイン、ギリシャなどで大規模な山火事が起きている。ただ地球の裏側で今一つピンと来なかったが、一昨日ハワイのマウイ島の火事を見るにつけ、現実味がグッと増した。

ハワイ諸島の中でもオアフ島は観光客が多く都会ぽく、ハワイ島は自然が多く素朴である。その点マウイ島は適度なバランスが素晴らしく一番センスのいい島である。特に高級リゾート地のカアナパリは憧れの地で、昔伝説のディラーのSさんが、その一室から電話一本で大金を動かしていたなんて話を聴くと、益々憧れを強くした記憶がある。 

今回のマウイ島の火災ではそのカアナパリを含め、綺麗な商店街が続くラハイナなどが殆ど消滅したという。既に50人以上の人も命を落としたらしい。地中海のストロンボリ島で、住民が船で海上に避難する光景を思い出したが、火の手が早く間に合わなかったのだろうか。 

火事に遭うと家や家財、場合によっては命も失う。かく言う私も引っ越し荷物が全焼した事があった。引っ越しが終わりホテルで過ごしていると、日通から電話があり「放火で倉庫が全焼してしまいました!」という。一瞬何の事だが分からず茫然とした。 

家財が焼けて困ったのは、過去の記憶が希薄になる事だった。その時初めてヒトの思い出が写真や土産物といったモノに紐付けられている事を知った。モノが無くなると記憶が曖昧になり、場合によっては過去が消えてしまうのである。いい例が戦争である。ポーランドや韓国のような大国の狭間にあって焼失が大きかった国は、歴史のアイデンティティーが希薄になるのはその為の気がしている。

マウイ島の悲劇はそう簡単に忘れられるものではないだろうが、島がなくなった訳ではない。ブーゲンビリアとハイビスカスの香りに囲まれたハワイである。逞しいアメリカ人の事だから、きっと又再建してくれることを願っている。

Wednesday 9 August 2023

政治家の海外出張

自民党の女性議員がパリで撮った写真が炎上している。研修と称した観光だったのでは?とマスコミが騒いでいる。その通りで、今回も実態は子育てを冠した女性党員の慰安旅行だったのだろう。松川議員の脇が甘かったに尽きるが後の祭りである。

暫く前にも岸田首相の長男も話題になった。ロンドンに付いて行った時、公用車でハロッドに大量のネクタイを買いに行った。未だにこんな事やっているの?と呆れた人は多かったと思うが、それが内閣の閣僚への土産と聞いてダブルで驚いた。 

 海外に出ると気が大きくなるのだろうか?それで失敗する人は多い。思い出すのは環境大臣に就任したばかりの小泉進次郎である。得意の英語で環境対策を語ったのは良かったが、「ところでどうやってCO2を減らすの?」と聞かれ、「大臣に就任したばかりなのでこれから考える」と答えたのが致命傷になった。彼のオーラが一瞬にして吹っ飛んだ瞬間だった。

 信無くしては立たず、些細な事だが人の心はこういう処から離れていくから怖い。今解散したら自民党は負けるだろう。 

 処で余談だが、海外旅行に出ると日本人は必ず会社の人や近所に土産を買って帰る。一方欧米人にはこの習慣がない。それを知らないで「皆で分けて」を込めてお菓子の詰め合わせなどを代表に渡すと、受け取った人はまず自宅に持って行ってしまう。私の友人も、子供がお世話になったスポーツ教室で、お礼に皆さんで食べてとチョコ100枚を先生に渡すと、彼が全部自宅に持ち帰ってしまった。喜んだのは先生の奥さんだった。