そのお宅は郊外に建つ一軒家で、英国から渡って来た50歳代のご主人と奥さん、そして一人息子の3人暮らしだった。ご主人は三回目の結婚で、前の奥さんとの間に生まれた子供も成人し、やはりブリスベンに住んでいた。奥さんも2度目の結婚、その子は前夫との間に生まれた子供だった。
ただ男の子は一日中家にいて、曲にならないバイオリンを弾いていた。何か変だなと思ったが、暫くして不登校だと分かった。週末になるとカウンセラーがやって来て、3人で何やら話し合っていたのが印象的だった。
帰国して調べてみたら、16〜24歳のZ世代と呼ばれる若者の4人に1人は精神疾患を持っている事が分かった。また2人に1人は潜在的なトラウマ体験を持っているいう。コロナの影響や学校のイジメもあるが、原因は親の経済状況、中でも住宅ローンの不安が断トツだった。
例えばこの国の平均所得10万ドルの人が、100万ドルの家を買ったとする。ローンを8掛けの80万ドルで組むと、オーストラリアの金利は7%と高いので、毎年の金利負担だけで5.6万ドルにもなる。つまり年収の50%以上が利払いになり、さらにそれに元本が加わるのであった。滞在中も金利が上がるニュースで大騒ぎになった理由も頷けた。
年々増え続ける人口に不動産の供給が追い付かない。だから価格は上がる一方で、元々リバレッジの高いお国柄もあり、困窮の構図が見えて来た。親が生活費に困ると家庭内の雰囲気も悪くなる。子供のメンタルヘルス費にも影響し、益々悪循環に入って行くのであった。
もう一つの不安に気候変動による環境問題がある。オーストラリアらしい話だが、昨今の日常化する森林火災や洪水は正に生存に直結していた。それを子供は敏感に感じていた。
そして万国共通のSNSが煽る不安もある。昨年末から16歳未満の子供のSNS利用が禁止された。世界初であるが、その背景にはSNSで子供が自殺した親の強い働きかけもあった。そうは言っても、ゴルフで一緒に廻った親子の15歳の少年は、ショットする時以外ずっとスマホを見ていた。お父さんに「禁止されたんじゃないの?」と聞くと、「ソシアルメディアはね」とまだまだ改善の余地は多いようだ。
その他地元のゴルフ倶楽部ハウスでは、認知症の人たちのケアー活動が行われていたし、ビーチを歩けばスタッフが付き添う精神患者もいたし、全豪オープンのショップも患者らしき人が訓練を兼ねて売り子をしていたり・・・、一見明るくて豊かに見えても、実は色々悩み事も多いのだった。