Wednesday 27 May 2020

桜田門外ノ変


以前、仕事で行った先の近くに愛宕山があった。昼休みに登ってみると、山頂には粋な茶店と池があり、とても新橋駅の徒歩圏とは思えない静けさだった。「都会にもこんな憩いの場が残っている!」と驚いたが、更にビックリしたのは、そこが井伊直弼殺害時に、水戸藩士の集合場所だった事だった。確かにここから皇居桜田門まで、歩けば20分程で着ける。普段は地下鉄で動き回っていると、中々気が付かない距離である。それから暫くして、井伊大老の墓がある豪徳寺を訪れた。立派な三重塔に小京都を思わせる佇まいだった。寺の奥に井伊大老の墓がひっそり建っていた。歴史の裏舞台に立ち、ブラタモリの気分に浸った。




その事件を描いた小説、吉村昭著「桜田門外ノ変」を改めて読んでみた。殺害のリーダーだった関鉄之助にスポットを充て、特に事件に至る経緯を詳しく書いている。赤穂浪士の討ち入りのように、主君の怨念を晴らす流れになっている。読んでみると面白い箇所が沢山あった。事件後に残党組が薩摩との合流を目指して関西を目指すが、途中に泊まった中山道や北国街道など、今でも馴染みのある町村名が出て来る。彼らは商人に化けて逃れるが、茨城弁は隠し切れずに晴れてしまうのは滑稽だ。また安政の大獄に至った水戸藩の危機感は、海に面した地形と関係が深かったようだ。外国との対峙が現実味を帯びたのが、攘夷思想を生んだという。中でも井伊大老の首級を持って逃げた有村次左衛門が息絶えた但馬守屋敷に、彦根藩の侍が首を取り返しに行く。流石に殿の首とは言えず偽名を使ったようで可笑しかった。

主人公の関は逃亡の果て、最後は地元の袋田近くで捕まる。何年か前に昔の友人たちと、温泉旅行で袋田の滝を見に行った事もあり懐かしかった。今でも閑散としている山間だったが、昔から集落があったようだ。ともあれ奇襲現場に指や耳鼻が散乱した描写や、関が糖尿病で治療を受けていたなど、氏の丹念な取材が光っていて、物語をよりリアルにしていた。

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