Sunday 19 July 2020

都市に出れない中国農民

近藤大介という中国通の記者がいる。何年か前に「習近平は必ず金正恩を殺す」というセンセーショナルな本を出した。当時から北朝鮮は核実験を繰り返し、中国も国連決議を理由に抑制を諭していたので本当にやるのかと思った。ところがあれから6年経つが、今の処何も起きていない。最近やはり同じ著者の書いた「中国経済1100兆円の破綻の衝撃」を読んでみた。書いたのは2015年なので同じ頃だった。内容は中国経済の脆さを、株で損失を出す投資家、賄賂撲滅の政治的逮捕、インチキな統計の話などを豊富なデータで解説していた。ただ分析は立派だが何となく煽動的な感じがした。やはりジャーナリストだから仕方ないか?とも思った。そもそも表題の1100兆円はGDPの数字である。GDPが破綻する訳はないだろうし・・・。

一方、目から鱗の人もいた。同じ新書だったが、川島博之著「戸籍アパルトヘイト国家・中国の崩壊」はいい本だった。著者は東大の先生だが、学者の本にしては平易で自身の言葉で語っている処も魅かれた。特に専門が農業開発という地味な分野だけに、中国の農村の実情を良く踏まえていらっしゃる。自身が預かる留学生の故郷を訪ねて取材する手法も珍しいし、視点が農村なのがいい。内容は冒頭で書いているように、中国には13億人の人がいるが、実は9億人が(都市に出れない)農民という現実である。兎角我々のような外国人が接触するのは都市の人々だから、彼らの作り出した製品や数字と付き合っている。中国農民は表に出ないサイレントマジョリティーだった。当然経済格差も大きい。読んでいて、それはアメリカで云えば黒人層に似ていると思った。普段日本のビジネスマンが接触するのが白人が多いから、黒人など下層の事は殆ど知らない。

著者はその理由を中国3000年の歴史から分かり易く紐解いていた。有史以来、農民とはそう言う存在らしい。そう思うと共産主義も有りかと思えたり、仮に今の体制が代わってもこの中国は変わらない気がしてきた。本書は筆者が目の前で語っているかのようで、スッと頭に入った。学者の本と云うと兎角専門バカで取り付き難いが、久々に面白い一冊だった。

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