Wednesday 9 March 2022

ロシア人とダーチャ

暫く前にプーチンの政敵が、プーチンの豪華な別荘を公開した。別荘と言うより宮殿に相応しいその館は、黒海のゲレンジークという町にあった。勿論プーチンはそれを否定したが、近くのソチ(冬季オリンピックで有名)には、あのスターリンの別荘もあったので、強ち嘘ではない気がする。ゴルバジェフがクーデターで捕らえらえたのも、クリミア半島の別荘だったり、ロシア人と別荘は切っても切れない関係にある。

別荘と聞くとブルジョア的なイメージを思い浮かべるが、ロシア語でダーチャ(Dacha)と称するサマーハウスであり、実態は意外と質素である。冬が長く短い夏に思いっきり太陽を浴びたいという人間の欲求を満たす場だから、特権階級のみならず一般市民にも浸透している。 

例えばエストニア北部のロシア国境にナルバ(Narva)という町がある。丘から見下ろすと、ロシアから出稼ぎに来る車が検問所で列を作っているのが見える。その町の郊外に物凄い数のダーチャが建ち並ぶ森がある。森の先にはバルト海の広大なビーチが広がり、人々はここで夏になると只管陽を浴びるのであった。

ただロシア人が引き揚げてからは、殆どが空き家になっている。訪れた時もその不気味な静けさに怖くなった記憶がある。何より日本と違うのは、レストランや商店が全くない事である。ダーチャはかつては農民の自給自足の耕作地だったように、食糧不足を補う場所でもあったからだ。 

人間だからロシア人とて暖かい場所を求めるのは自然である。ただ次第にその限らた場所も西側に行ってしまうと、生存本能が脅かされる気分になるのも分からないではない。一年中寒い土地に暮らすには我慢が要るが、それが過ぎると被害者意識に変る。冬のこの季節、キエフではマイナス3℃だがモスクワは10℃を超えている。侵略は決して許されるものではないものの、そんな人々の心理を思い出したのである。

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