Friday, 22 September 2023

サンフランシスコの死骸船

暫く前にモロッコのマラケシュで大地震があった。映画「カサブランカ」の舞台にもなった大きなバザールが崩れていた。30年程前に行った時、迷路に迷い込み怖い思いをした事を思い出したりしたが、土で作った家屋は脆かった。

同じ頃、リビアでも大洪水が起きた。ただアフリカの土地勘がないので、こちらは場所が何処なのかピンと来なかった。凡人には行った行かないの経験則は大きい。ただ想像力が逞しい人にとっては、そんな事は問題ではないらしい。 

 「80日間世界一周」で有名なジュール・ベルンは、見た事もないアフリカで立派な探検記を残している。「サハラ砂漠の秘密(L`Etonnante Aventure de la Mission Barsac)は、象牙海岸の奥地を3000㎞旅する小説である。兄の不信な死の汚名を晴らす妹の高貴さと、フランスが19世紀にアフリカに影響力を持っていた様子がうまくマッチしていた。

 同じくジュール・ベルンの中国を舞台にした「必死の逃亡者(Les Triburation D‘un Chinoies en Chine)」もあった。主人公の中国人には父親が残した莫大な財産があった。彼の父親は、開拓史の時代にサンフランシスコで死骸信用金庫の理事長をやっていたからだ。当時は大陸横断鉄道建設に多くの中国人が使われていて、彼らは死ぬと中国に送り返された。その運搬船を「死骸船」と呼び、父親はその事業で莫大な財を築いたのであった。

 ただここまで来ると、どこまで本当の話なのか流石に疑わしい。一方でどちらも一度も行った事がないのによく書けると感心してしまう。流石SF小説の元祖であった。

Thursday, 14 September 2023

テート美術館展

未だ暑さが続くが、暦の上ではもう秋である。秋は芸術の季節、ならばと開催中のテート美術館展に行ってみた。行ってビックリ、平日なのに多くの人が並んでいた。既に来場者も10万人を超えたというから、入場料を2200円として2億円以上の収入になる。賃料がいくらか知らないが、きっと企画は成功したのだろう。

目に付いたのは来場者の装いだった。気のせいか奇抜な服装の若い女性が目立った。美大関係の人だろうか?、将又会場は乃木坂の一等地だからおしゃ目的なのだろうか?勝手に想像しては楽しんだ。

ただ肝心の展示の方は見てガッカリ、展示数が圧倒的に少なかったのであっという間に終わってしまった。お目当てのターナーは数点、コンスタブルに至っては油絵が2点のみと貧弱だった。代わりに光をモチーフにした近代オブジェがあったが、例によって芸術性を全く感じない代物で素通りした。

 ロンドンのテートギャラリーには、有名な「オフィーリア」など今回来ていない作品が沢山あるやに聞いている。もうちょっと出して欲しかったというのが正直な気持ちである。ともあれ、日本でもスマホの写真撮影がOKになった事を知ったり、芸術に触れるとやはり一日が豊かになるなど、実り多き秋の一日になった。

Tuesday, 12 September 2023

ジャニーズの性的虐待

児童の性的虐待といえば、今は何と言ってもジャニーズだろう。詳しい事は知らないが、BBCの報道などを読むと本当に心が痛む。20年以上前から最高裁でも取り上げられた問題だと聞く。もっと早く向い合えば、どんなに多くの子供たちが助かっただろうと残念だ。

大人たち、取り分けマスコミには強い怒りを感じる。いけない事は分かっていても商売優先で看過して来たのは、ビックモーターと保険会社の関係と全く同じである。

 この問題はジャニーズに限らず、世界的に慢性化しているから質が悪い。シドニー・シャルダンの「Memories of Midnight」に出て来るモデルのケニーは、8歳の時に叔父から被害を受けた。以来夜になると電気なしでは眠れなくなり、結婚はしても肉体関係は拒否した。 

 「ミレニアム」でも若い女性が次々と失踪する。ドラゴンタツーの女が事件を追う内に、一枚の写真に写っていた少女の怯えた視線から犯人は叔父と突き止める。彼女もその被害者の一人だったが、身内から逃げるのがどんなに大変だったかが伺える。 

 そんな被害に逢った女の復讐劇が、クリント・イーストウッドの「ダーティーハリー」である。若い時にレイプされた女性が、成人して加害者の男を次々に殺害する話である。被害者の特徴は陰部を撃たれた形跡があった事から、事件が遺恨がらみの女と分かった。中々真似出来る事ではないけど。

ただ子供の中にはプラスマイナスプラスと受け止める人もいる。BBCでもその一人が紹介されていた。先のシドニー・シェルダンの小説でも、神父と寝る少年は路上生活から抜け出て生活の糧と割り切っていた。人によって受け止め方が違うだけに問題は複雑である。

Wednesday, 6 September 2023

告解の漏洩

社会に出て最初に困ったことの一つに、悪いニュースの伝え方があった。上司に「間違ってしまいました!」と云うと怒られるのに決まっている。だからと言って隠す訳には行かない。今から思えば、予め解決策を用意してセットで持っていけば良かった。ただ当時はそんな技を知る由もなく、馬鹿正直だけでは世間を渡れないと知った。

処で教会には「告解」がある。過ちを告白して罪を赦してもらう儀式である。私はキリスト教の信者ではないから試したことはないが、知人によると告解をすると気が楽になるらしい。 その告解の内容が外に漏れる事もある。神父も人間だから一人心の中で閉まっておけないのだろう。

シドニー・シェルダンの「Memories of Midnight(真夜中の記憶)」では、若い弁護士が外部からの圧力に屈し死刑判決を出したことを後悔し、「自分は殺人を犯した」と告解する件が出て来る。そして神父は我慢出来ずにその話を外に漏らしてしまう。すると若い弁護士は闇の世界に消されてしまうのであった。 

告解はフレデリック・フォーサイスの「オデッサファイル」でも出て来た。死の床に就いた女性はナチの逃亡者リストの場所を知っていた。神父に化けたモサドが近寄り、告解して罪を償うように諭す。女性は全てを語り、モサドはファイルを手に入れるのであった。

ところで先のシドニー・シェルダンの小説で、神父が漏らした相手は同性愛でベットを共にした少年であった。少年はカネ欲しさにその情報を売ろうとして発覚した。暫く前にカソリック教会の性的虐待も話題になった事を思い出し、さらりと物語に取り入れた著者のリアルさが凄かった。

Wednesday, 30 August 2023

チャイコフスキーとウクライナ

ワグネルのプリゴジンが殺された。6月の反乱以来その消息が途絶えていたが、やはり最後はプーチンが許さなかった。改めて政敵を容赦しないロシアの風土を感じた。思えばイワン雷帝、ピョートル大帝も凄かったが、スターリンに至っては4000万人も粛清したというから今更驚く事ではないのかも知れない。

太平洋戦争末期の記憶からも、ロシア人は野蛮というイメージがある。ただ一方でトルストイやソルジェニーツィンなどを読むと彼らはとても人間的だし、チャイコフスキーの美しい旋律からは想像出来ない。やはり1%の独裁集団が富の50%を握っている国だから、独裁者と民衆は別物と考えた方がいいのかも知れない。 

 そのチャイコフスキーだが、先日弦楽四重奏1番の2楽章を聴いた時、その曲が彼のウクライナ旅行の際に出来た曲だと知った。甘く子守唄のようなメロディーは、今のウクライナの悲劇とも重ねると切なく聞こえた。

 チャイコフスキーは生涯独身だった事もありよく旅をした。エストニアのハプサルというバルト海に面した町があるが、毎年夏になると彼は汽車に乗ってやってきた。バルト海は波がないので死んだような海の景色だが、そこで生まれたのが何とあの「白鳥の湖」だった。これは2011年7月22日に「白鳥の海」と題しこのブログで書いた。あれから大分月日が経った。


Saturday, 26 August 2023

慶應の優勝

甲子園の夏の大会で慶應高校が優勝した。107年ぶりというが、その頃生きていた人は居ないから殆ど初優勝みたいなものだ。甲子園に出れるだけでも大変なのに、準々決勝、準決勝と勝ち進むうちにひょっとしてと思い始めた。一段一段階段を登って来た感覚だけに、感慨も一入である。

話題になったエンジョイベースボールだが、昔から野球に限らず非難する人は多かった。私の場合はテニスだったが、まず勝つ事が大事なのに楽しむとは何事か!と言われた。今から思えば、ゴールは同じなのに表現の仕方が気に食わなかったようだ。

 見ていて快かったのは選手の笑顔だった。仙台育英もそうだったが、失敗しても笑い飛ばしていた。未だにテニスでミスをすると、組んだ相手に「すみません」と謝るのが決まり文句になっている。今更どうしようもないが、その呪縛から抜け出せた人は生き生きしていた。今の若い人が羨ましくなった。 

 コーチの存在も大きかった。大学の体育会でレギュラーになれないと、学連や高校のコーチに就く人が多い。そこで腐ってしまうと思いきや、監督の森林さんのようにその道を極める人が実に沢山いると知った。組織力というか、勝因はアルプススタンドの応援だけではなかったのだ。 

 最後に気になったのが選手のプライバシーだった。連日TVに映し出され紹介されていたが、所詮は子供である。試合が終われば又学校に帰って普通の生活が待っている。マスコミもその辺十分気を付けてもらいたいと思っている。

Tuesday, 22 August 2023

ガヴローシュの閉店

ロンドンの老舗フレンチレストラン、「ラ・ガヴローシュ(La Gavroche)」が来年1月で閉店する事になった。シェフのミッシェル・ル―Jr.は当年63歳、BBCの料理番組でも活躍し、ロンドンマラソンにも13回出場すスポーツマンである。

レストランは67年前に彼の父が始めた。ミッシェルはその2代目としてミシュラン2つ星を獲得するなど正に脂がのっていた。その彼が仕事と家族のバランスを考え、特に後者との時間を余生に充てる事にした。絶頂期の引退だけに惜しまれる一方、その生き方が共感を呼んでいる。

 弁護士や会計士、医者もそうだが、終身働き続ける人は多い。そういう人に会うと必ず「仕事は健康に資する」と諭される。確かにそうかも知れないが、最近では「そうでない時間も奥深い」と秘かに思っている。 

 処で先の店の名前のガヴローシュは、レ・ミゼラブルに登場する少年に因んでいる。腹黒いテナルディ夫妻の長男として生まれた彼は、親の愛を受ける事なくパリの路上生活に入る半ば孤児であった。物語ではジャンバルジャンを探しに潜伏していたジャヴェール警部を見つけ出すなどの活躍をするが、最後は市街戦の流れ弾に当たってしまう。

店には行った事はないが、料理にシェフの人間味が伝わってくるような感じがする。