Monday, 18 October 2021

ユダヤ・コレクション

今から8年ほど前だったか、ミュンヘンのアパートで大量の絵画が発見された。戦時中にナチが略奪した物で、その数は1200点、額にして10億ユーロ相当もあった。隠匿者の老人は長年その作品を売っては生活の足しにしていたという。

ナチの盗んだ絵画は今でも10万点以上が行方不明と云われる。背景にはヒットラーが画家志望であった処から、将来オーストリアのリンツに大美術館を建設する夢を持っていたとか、ゲーリングがその向こうを張って美術収集に凝ったとか色々な説があるが、いずれにしても国家ぐるみの事業だった。

バート・ランカスター演じる映画「大列車作戦」は、こうした移送を阻止する鉄道レジスタンスの話だったり、「ミケランジェロ・プロジェクト」もその手の類の作品で、宝探しのような感覚があるのだろうか、未だに数多くの小説・映画で取り上げられている。

随分前になるが、フランク・マクドナルドの「Provenance(ユダヤ・コレクション)」という小説もその一つだった。中野圭二氏の素晴らしい訳で読んだ事があるが、こちらもゲーリングから委託された元ナチの将校が戦後も隠し持つ話であった。彼は預かった大量の絵画をローマのカタコンブに隠し、本人は僧侶になって守り通した。ただいつかカネに変えなければ宝の持ち腐れである。問題はいつ誰を通して現金化を図るか、そこで出て来るのが画商であった。その大物画商が動き始める辺りから綻びが出て来るのだが、絵画を追うと戦前戦後が繋がるから面白い。 

物語の中にはパリの公共競売所、オテル・ドルオーも出て来る。フランス語の数さえ発音出来れば、誰でも参加できる至ってオープンな競り市である。何百円のガラクタから高級家具まで、午前中に下見をして午後のセリ参加するのだが、もの凄い速さで回転するのでお目当てを定めないと逃してしまう。競り落とすとその場で決済して直ぐに持ち帰るから、慣れて来るとショッピング感覚で参加できる。私の場合、お目当ては数万円程度の風景画であった。年代物も多く素人にしては立派な作品も多いので、画廊や蚤の市で買うよりお得感があった。出品者の多くは遺産の処分や転居・転業であるが、中にはこうした盗品紛いもあったかも知れない。

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