Tuesday 6 July 2021

背乗りのミステリー

災害や事故がある度に思う事がある。兎角被害に関心が奪われがちの我々だが、人の不幸に付け込む悪い輩もいる。特に人が入れ替わる「成り済まし」の絶好の機会である。マネーロンダリングならぬヒューマンロンダリングには気を付けたい。

松本清張の「砂の器」は天才音楽家の過去を追うサスペンスであった。刑事が次第に核心に迫っていく展開はスリルがあり、小説と映画の両方で楽しんだ。主人公の親はライ病を患っていたので、子供の頃は親子で全国を行脚する乞食であった。そんな彼にチャンスが訪れたのは、戦時中の空襲であった。ある町役場が火事で燃え戸籍が全焼した。そのドサクサに紛れて死んだ他人に成り済まし、過去を清算する事に成功するのであった。最近では阿部寛と松島奈々子演じる「祈りの幕が下りる時」もあった。幼い娘が誤って男を殺してしまうが、彼女の父親がその男に成り済まして姿を消す物語であった。長い間隠し通せたのは、福島の原発処理という特殊な生活環境だった事が幸いした。古くは水上勉の「飢餓海峡」もあった。こちらは青函連絡船の事故に乗じて殺人を隠ぺいする男の物語であった。三国廉太郎主演の受刑者とそれを追う刑事役の伴淳三郎、男を慕う左幸子の演技が渋かった。

そう言えば、慰安婦問題を取り上げた朝日新聞の吉田清治という記者がいた。百田直樹氏の「今こそ韓国に謝ろう」の中で、彼の履歴を追うと学校の在籍記録がなく死亡届もあったという。そのミステリーを解いて行くうちに、隣国のスパイが使う成り済まし、専門用語では背乗り(はいのり)ではないか?と疑っていた。ここまで来るとかなり手が込んでいる。

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