Friday 30 June 2017

吉村昭を読んで

暫く前に読んだ「陸奥撃沈」の後、友人から「史実を歩く」もいいと言われて、このところ故吉村昭氏に凝っている。「わたしの流儀」「ひとり旅」と乱読している。丁寧な取材から新たな真実が分かり、全く違う物語が始まるから面白い。

例えば陸奥の沈没は自然発火と思われていたが窃盗犯の人災だったり、黒船のペリーに対応した奉行の森山栄之助の英語は、マクドナルドという漁師から習ったものだったり、生麦事件の直前、行列に道を開けたヴァン・リードという外人がいたり、山本長官機撃墜の護衛機の生き残りパイロット等々・・・、事件も沙流事ながら、その掘り起こしが作家だけあって凄い。そして小料理屋で酒を嗜む風景が良く出て来る。井の頭の地と相まって、氏のお人柄を引き立てている。

そんなエッセーを読んでいてハッとした事があった。それは自身の自慢話である。小学校に入るか入らないかした頃、著名なK博士と握手したことがあった。父親に連れて行ったもらったOB会の席である。博士は戦災で顔が焼け、指も溶けてグローブのようになっていたが、そんな手に恐々触れたのが自慢だった。しかし子供にそんな戦災の事なんて分かっていたのだろうか?話は後になって、面白く美しくするために自身で加工したのではないか?と。

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