Sunday 1 October 2017

1%の妬み嫉み

最近は、また吉村昭氏に凝っている。「漂流」は南方の孤島で12年を生きた男の話であった。島には流れ着いた船乗りがやって来るが、お互い生死を彷徨っているにも拘わらず礼儀が伝わってきて快かった。辿り着いた男達は対馬の出身で、その中に結婚寸前の男がいた。彼は嫁を「腰担ぎ」で決めたという。腰担ぎは初めて聞く言葉だったが、男に頼まれた村の衆が女を浚う習わしであった。北欧のバイキングと違い、狭い対馬の言わばゲーム感覚儀式で微笑ましかった。


「大本営が震えた日」は真珠湾を前に、戦艦武蔵の図面が消失した話である。舞台は長崎造船所、良く吉村氏が犯人を探し当てたと感心した。その動機は単純なもので、「陸奥爆沈」の男と同じ出世根であった。ムシャクシャして図面を燃やしてしまったことが、真珠湾を前に凍り付いた事件になった。

「空白の戦記」では、日本海海戦を終えた戦艦三笠が、湾内で爆沈した裏話を紹介していた。こちらは火薬庫と酒を飲んだ際に引火した話だが、どれも共通するのは99%は管理しても、所詮はヒトのやることである。最後の1%は妬み嫉みの感情の世界になる。”事実は小説より奇なり”、吉村さんの凄いのは、その1%の世界を刑事のような執念で発掘している。

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