Saturday, 21 June 2025

国立公園のキャンプ

 G7がカナダで開催された。トランプ関税やウクライナ支援などで、独仏や日本とギクシャクしている最中である。そんな空気を察してか、トランプも逃げるように帰ってしまった。

今回の開催場所はカナナスキス(Kananaskis)であった。何処かと思ったらロッキー山脈の麓、懐かしのバンフやジャスパーの国立公園も近かった。

あれは二十歳の時だったか、夏休みを利用してアメリカの国立公園を廻った。ロスアンゼルスで、親の知人から貰った軍用シュラフを担いで野宿した。グランド・キャニオンを皮切りに、グランドティートン、イエローストーン、そしてカナダに入ってグレーシャー、ジャスパー、バンフの各国立公園でキャンプした。

距離が長いとグレイハウンドバスで、公園内はヒッチハイクで移動した。アメリカの壮大な自然は息をのむ美しさがあった。ラジオから流れるベートーベンが、その風景に良くマッチしたのを覚えている。

車に乗せてくれた人は、何故か大学の先生が多かった。取り分けMITの教授は、奥さんが日本人だったり、奇しくも母校のフェローだった縁もあり、よく面倒を見てもらった。イエローストーンで知り合い、ワシントンDCの自宅にも泊めて貰ったり、その後来日した時にも親交を深めた。

また恐妻家(Henpecked husband)を自称する先生とのキャンプも思い出深い。バンフ国立公園のルイーズ湖(Lake Louise)で夜話していると、「自分は家内から逃れて一人旅をしている」と言う。当時はまだ若かったので、そんな心境を分かるはずもなかったが・・・。

あの頃は為替が300円の時代だった。おおらかなアメリカ人と豊かな自然にすっかりファンになってしまった。あれから50年、もう一度行きたいとは思っているが、昨今の物価高と治安も心配で諦めている。せめて良き時代を思い出しては懐かしむ今日この頃である。

Tuesday, 17 June 2025

USスチールと黄金株

 ずっと気になっていたUSスチールの買収が決着した。トランプが色々と渋るなら、ブレークダウンも仕方ないと思っていた矢先だった。

特に黄金株の登場にはビックリした。屋上屋を架されたようで、以来喉に小骨が刺さった感じがしている。先方の弁護士が捻り出したウルトラシーなのだろうが、つくづくアメリカ人の悪知恵には感心した。ただ確か日本では認められていないので、法的に大丈夫なのだろうか?

買収金額の2兆円と今後の投資の2兆円、日鉄がコミットした4兆円は凄い金額である。同社の売り上げが8兆円だから、改めてその額の大きさに驚かされる。又買収額はキャッシュで払わねばならない。そんな資金調達も大丈夫なのだろうか?

そして何より100%の完全子会社化の方が気になる。日鉄の経営陣にはアメリカ留学組も多いと聞くが、問題は英語である。所謂契約交渉のような1対1のバイならいいが、マルチ(大人数の議論)になるとレベルが違ってくる。

取締役会など喧々諤々の声が飛び交う中、2〜3年程度の留学英語では到底太刀打ちできないのは明らかである。特に時にはジョークやユーモアも交えて人心を掴む事も必要だ。正直で人がいいだけではマネージに限界がある。

思い出すのは、東芝のウェスティングハウス買収である。アメリカの老舗電機メーカーを大胆にも手に入れたのは良かったが、数年後に破綻して1ドルで売却、東芝もそれがきっかけになり破綻した。トップの誤った決断が、従業員や株主の財産と未来を奪ってしまった。

古くは三菱地所のロックフェラーセンター買収失敗もあった。人種の偏見も根強いし、日本人がアメリカ人を管理する最も苦手な事が、これから始まろうとしている。「鉄は国家なり」の会社だけに心配である。

Saturday, 14 June 2025

偉大な父

先週、長嶋茂雄さんが亡くなった。御年89歳、脳梗塞を患ってから不自由が続いたが、随分とリハビリに頑張っておられた。明るくアグレッシブな性格は多くの人に愛され、国民的アイドルであった。長い間ご苦労様、心からご冥福をお祈りしたい。

その偉大な父の下で育ったのが一茂さんである。父の背中を追って立教から巨人に入った。ただ30歳で戦力外通告を、しかも実の父親から告げられ、暫くして野球を諦めた。

父が社会から評価されるほど、益々小さく感じる自分だったのに違いない。今までよくグレないで来たと思う。最近はテレビで活躍しているのを見るにつけ、やっと自分の居場所を見つけた気がする。

ポルトガルの英雄クリスティアン・ロナルドの長男も先日プロでデビューしたり、松岡修造の息子もアメリカから軽井沢Futuresに参加していた。今はいいが、同じジャンルの父を超えられない時どうなるのか、少し心配である。

一方で全く違う道を歩む息子も多い。アガシとグラフの息子はサッカー選手に、ゴッドファーザーの息子もオペラ歌手になった。この方が伸び伸び生きる事が出来る。

偉大な父から逃れた息子もいた。思い出すのはマッカーサーである。一時は大統領候補にもなった第二次大戦の英雄だが、一人息子は戦争が終わるとジャズのピアニストになった。やがて父親の名前が重荷になり、姓も変えNYの下町に消えて行ったのである。

また古くはロシアのピュートル大帝もいた。ロシアの西洋化の礎を築いた人だったが、息子は病弱で性格も大人しく父と対立した。その父から逃れようと、挙句の果て反旗まで翻したが失敗し、最後は(父に)処刑された。戦乱の世にはよくある話かも知れないが、何故か気になっている。

そもそも偉大な父なんて世間が勝手に付けた形容詞に過ぎない。それなのに実際は中々その呪縛から抜け出せないのである。

Tuesday, 10 June 2025

ガウディ没99年

 TVを見ていたら、芦田愛菜さんのバルセロナ旅をやっていた。随分予習をしたようで、連れの女優相手に蘊蓄を披露していた。改めて解説されると勉強になった。有名なサグラダ・ファミリアも良かったが、やはりガウディが設計し、晩年の住居として使っていたミラ邸は、彼をより身近に感じる場所だった。

というのも、中公新書の「物語 スペインの歴史、人物編」の中には、ガウディの最後が詳しく描かれていたからだ。これを契機に読み返してみたが、彼はその日、いつものようにサグラダ・ファミリアでの仕事を終え、教会のミサに出てそのミラ邸に帰宅するはずだった。

処が途中で市電に轢かれて3日後に亡くなったのであった。享年73歳、今から99年前の1926年の今日6月10日であった。

病院に担ぎ込まれた時は浮浪者と間違えられた。採食主義者だった栄養不足が風貌に表れたのか、一生独身だった彼の食事は、ミラ邸の守衛の奥さんが三食作っていたという。事故の発覚も、帰宅が遅くなり不信に思った奥さんの機転が功を奏した。

著者の岩根氏は学者だが、当初作家を目指しただけあって、文章にメリハリがありとても読みやすい。前作の「物語スペインの歴史」も、セルバンテスに焦点を充て面白く纏めていた。この物語シリーズは、往々にして年表の羅列で終わる無味な学者が多い中で、「ウクライナ」の黒川氏と並んでいい出来はピカ一と思っている。

因みにサグラダ・ファミリアは来年に完成するという。その奇抜な配色はあまり趣味でないし、塔の材質にはコカ・コーラの空き瓶も入っていて興ざめした記憶がある。ただ聖書に長けキリストの物語を知ると、自ずと見方も変わってくるのである。

Thursday, 5 June 2025

天安門とマイケルチャン

昨日の6月4日は天安門事件の日であった。1989年6月4日に、民主化を求める多くの中国の学生が、天安門広場で軍によって弾圧された。

私は丁度、北京への出張を予定していた時だった。Y部長から翌朝電話があり、出張は中止にしたと連絡があったのが昨日のようである。後から聞いた話では、中国各地の駐在員が空港目指して逃げた非常事態であったから、邦人にとっても他人事ではなかった日になった。


その事件を挟んで、全仏オープンテニス(ローラン・ギャロス)が開催されていた。確か4回戦だったか、17歳のマイケルチャンが第一シードのレンドルに勝った試合を見ていた。疲労困憊の少年が、アンダーサービスまで繰り出して接戦を制した一戦であった。夜中まで見ていた記憶があるが、巨人に立ち向かう姿には心を打たれた。

チャンはその後も勝ち進み、決勝ではエドバークに逆転勝ちして優勝を果たした。同世代の中国の学生が天安門で倒れる中、(台湾系とは言え)そのジャンヌダルクのような勇姿は、世界中から称賛されたのであった。

あれから36年経って中国の経済は大きく発展した。ただ一方で締め付けもどんどん厳しくなって、独裁体制も益々進んでいる。

36年と言うと、子供が中年に、中年が老人になる時間軸である。文革を担った紅衛兵も今や70歳代に入っている。親や年長者を批判して、神社仏閣をぶっ壊した世代である。その人達が隠居に入り、何も無かったかのような子供世代がインバウンドで来日して飯を食っている。

最近は歳を取ったせいか、実はそんな独裁でもいいかと思い始めている。中国の体制が崩壊すれば、押し寄せる難民や経済の混乱の方が大きい。所詮統治の話である。そんな他人の国の事を心配するよりも、まず足元の難題の方が気になっている。