Friday, 30 May 2025

お寿司の話

 寿司屋といえば、思い出すのはYさんである。Yさんは名門ラグビー部のOBである。後輩の面倒見がよく、よく学生を連れては飯を食わせに行っていた。ただその奢り方が半端でなかった。

体育会の大柄な選手たちだから食べる量も半端ではないのを知ってか、親仁に「このカウンターの魚を全部でいくらする?」と聞く。親仁は「そう60万円位かな?」と応えると、「いいよ」と始める。そうすると学生は(当たり前だが)遠慮する事なく、思う存分食えるので大喜びするという。

Yさんは食品を扱う問屋の社長さんであった。食べ物にはお金の糸目をつけないのか、将又宵越しのカネは持たないのが信条なのか、兎に角豪快な人だった。私も一個何千円もするフルーツや、冬になるとナポレオンの紅茶割など、高価な珍味を随分ご馳走になった。この辺はチマチマ生きるサラリーマンには中々マネ出来ない芸当であった。

その寿司の食べ方であるが、バブルの前後で少し変わった。それまでは例えば一人前を取ったとすると、安い玉子から始まり一番高価なマグロは最後の楽しみに取っておいた。処がバブルが崩壊して先行きが不透明になると、まずそのマグロから始めるようになった。「信じられるのは今」の動物本能である。

又日本人と外国人では食べる順序が違う。日本人はまずつまみと酒を楽しんでから、最後に握りで〆るのが一般的である。ただ外国人は反対に、握りでお腹を満たしてから酒を楽しむ。夕方Pubにビールを飲みに来るのも、食事を終えてからの由来に関係している。

Tuesday, 27 May 2025

ごっつぁんです!

先日、築地の寿司屋に行った時だった。若い力士二人を連れた四人組が入って来た。カウンターに力士を挟んで、如何にもタニマチ風の年配夫婦が座った。

力士は当初遠慮がちに箸を進めたが、アルコールが廻って来ると、どんどん注文をし始めた。寿司は二貫から一度に6〜8貫、大トロ、中トロ、アワビと高いネタもお構いなしである。マグロの串焼きも一挙に4本、その量は尻上がりに増えて行った。

一方タニマチ夫妻は財布を気にしているのか、飲むけど殆ど寿司には手を出さないのが対照的だった。力士は会話もなく黙々と食べ続けた。これには流石、「ごっつぁんです!」の世界に慣れているとはいえ、どうなのかな?と心配になった。20代前半から、こんな世界に浸ってしまって大丈夫なのだろうか?

思い出したのは、昔TVの特集番組で見た元横綱輪島であった。「黄金の左」の投げの豪快な力士だった。ただ現役を引退してからの晩年は、懇意だった居酒屋の一階でゴロゴロ、昼から酒を飲んで過ごしていた。それは現役時代の勇姿を知っている者から見ると、哀れであった。

サラリーマンは原則割り勘である。日本橋に「清く割り勘亭」という飲み屋があったが、ネーミングが安心感になり繁盛していた。言うまでもなく人間関係が長く続く秘訣でもある。

芸能人やスポーツ選手は若い頃にチヤホヤされるから、その慣習が全然違う。築地の若い力士を見ていてそれが気になった。


Thursday, 22 May 2025

ポルトガルとシルクロード

トランプ関税の末路について、ある人がシルクロードを引き合いに出していた。

シルクロードは古来東西を繋ぐ陸路として栄えたが、オスマン帝国が通過税や関税を課していた。ところが15世紀になってヴァスコ・ダ・ガマが海洋のインドルートを開拓すると、海運のスピードと安い輸送コストの煽りで、シルクロードは衰退したのであった。

所謂大航海時代の始まりで、その先駆けになったのがポルトガルだった。水は低き所に流れる。今回も米国を通さない物流が大きくなると、第二第三のポルトガルが出て来るかも知れない。

来月イベリア半島の旅を計画しているが、そのポルトガルは今までヨーロッパで唯一行った事がない国だけに楽しみである。あえて避けていたのには理由があった。

昔パリでポルトガル銀行の人にポルトガル料理をご馳走になった事があった。立派なレストランだったが、出て来たタラの燻製のような料理はパサパサして塩気が強く、全く喉を通らなかった。

その人は「ポルトガルは貧しい国だから、魚の保存食がメインになっている」と説明していたが、殆ど偏食もしないから余程の事だった。料理が不味いと、自ずと旅へのモチベ―ションも上がらなかったのである。

処が最近、写真家のKさんが旅した時の写真を見せてくれた。時間が止まったような街並みは素朴で、確かに豊かとはいえないが古びた魅力があった。大した産業もないのに、今まで大国スペインに飲み込まれなかったのも気になる。余り期待していないのが、吉と出るかも知れない。

Tuesday, 20 May 2025

クラインガルテン

コメの高騰が続いている。備蓄米を放し始めたが中々下がらない。そん中、江藤と言う農水大臣が「我が家には支持者から貰ったコメが売るほどある」発言があった。よりによってこんな時期に、農政を司るトップの資質に呆れた。政治は「信なくば立たず」、これでは誰も付いて来ない。

そのコメ不足だが、インバウンドで訪日した外国人が食べる量が増えているとか、万博用で確保しているとか噂は絶えない。先般のすき家事件も、国産米に拘った横槍が入ったと言う人もいる。個人的には減反政策のツケが廻ったと思っているが、上手く収まって欲しい。

その農業だが、知人のAさんが千葉で宿泊できる滞在型市民農園を始めると言う。農地と農機具を用意して、都会から人を呼び込むのだと言う。所謂家庭菜園を大きくしたようなイメージだが、素人が簡単に農作を出来るわけでもなく、寒い冬や害虫などの天敵も多いから最初は耳を疑った。

処が辺りを見渡すと、既に全国的な展開が始まっている事に気付いた。農水省の「農地漁村活性化プロジェクト」として、クラインガルテン(Kleingarten)と呼ばれる施策である。テニス仲間のFさんもこれを利用している。東京に奥さんを残し、春から秋にかけて信州の田舎に単身で野菜を作っている。住まいは共同生活のログハウスで、食事や家事は助け合って生活している。

その名前からして発祥はドイツらしい。何やら200年前から続いているという。ドイツは大都市に人が集中しないお国だから、田舎が日本以上に身近である。それが成功の理由と思うが、空いた農地、安い生活費、栽培の魅力の三位一体は万国共通である。

兎角新しい事を始めようとすると、やれ人間関係や栽培が上手く行かなかったマイナスの心配ばかりが募るが、土を弄ると日本人のDNAが覚醒するかも知れない。晩年を窮屈な都会で過ごすのも考えモノである。暫くは温かい気持ちで見守っていきたい。

Thursday, 15 May 2025

バルのはしご

インバウンドで外国人観光客が増えている。都心に出ると外国人ばかりが目立ち、まるで遊園地のようである。中にはロシア人も多いと聞く。戦争中なのに信じられないが、ロシアは広いからモスクワの眼が届かないのかも知れない。

その訪問先が、東京、大阪、京都のような大都市に集中していて、地方への波及が足りないという。地方の魅力をどう作り出すのか?先日TVを観ていたら、橋下徹さんがスペインのサン・セバスティアンの例を引き合いに出していた。

サン・セバスチャンはフランス国境に近いバスク地方の町である。グルメの都(Una capital gastronomica)として、スペインは元より世界中から美食家が集まるので有名だ。ミシュランの星が付く高級レストランからバル(軽食居酒屋)まで、中でも30ほどある倶楽部では、会員(男性のみ)が振る舞ってくれるようだ。

昨年友人夫妻のNさんが訪れ、そのバルの魅力に嵌ったという。鯛、イワシ、イカなどの海産物を一口つまんでは又次の店に行く、そのはしごが何とも楽しかったようだ。地元のチャコリと呼ばれるワインも、料理を一層盛り上げたという。

実は30年程前の夏、泊まりはしなかったがこの町を通った事があった。ビスケー湾に拡がるビーチでは、多くの人が海水浴を楽しんでいた。目に留まったのは若い女性で、殆どがトップレスなのには驚いた。それはとても開放的な自然の風景で、煌々と降り注ぐ強い日差しに映えていたのを覚えている。

ところでこの夏は、イベリア半島の旅を計画している。マドリッドからそのサン・セバスティアンに出て、海岸沿いに西に向かい、ポルトガルを廻る三週間の旅である。時間があればジブラルタル海峡を渡って、モロッコまで足を延ばす予定である。バルのはしごが今から待ち遠しい。

Tuesday, 13 May 2025

コンクラーベと隠し子

 ちょっと前になるが、バチカンの新教皇が選出された。レオ14世というアメリカ人であった。恐れ多くも、我が家のワンコと同じ名前だったりした。

だったらと、今上映されている「教皇選挙(コンクラーベ)」を観に行ってみた。評判はいいとは聞いていたが、平日だというのに映画館は満員だったのには驚いた。

日本のカソリック信者は43万人いると云うが、彼らが押しかけているのだろうか?気のせいか女性が多く、この手の作品では異常な盛り上がりが伺えた。

映画のコンクラーベは本命が次々と落ちる中、ダークフォースだったアフガニスタンの司教が当選する物語であった。下馬評が高かったアフリカ司教には若い時の隠し子が発覚、それを暴露して買収した司祭も失脚して5〜6回目で決まった。司教といえど所詮は人間、その赤裸々な葛藤がとても自然に描かれていて飽きない流れだった。

ただ(言っていいか分からないが)最後はその新教皇が実はオンナだった処で終わる。これには流石ビックリしたが、今の複雑な世相を反映して中庸なオチにしたのかも知れないと思った。

処でカソリックの信者は世界に13億人いるという。仮に一人当たり1万円の寄付をすると13兆円が集まる計算になる。日本の国家予算が115兆円だから10分の一の規模である。改めてその資金力の方が気になる。

バチカンマネーについては、バンコアンブロジアーノ銀行事件やパウロ一世の怪死など、かつて多くの本にもなった。ゴッドファーザーの映画でもこの件が織り込まれていたが、マフィアとの繋がりが深い世界である。中でもL.ガーウィンの「誰が(カルビ)頭取を殺したか(The Calvi Affair)」は名著だったので、これを機会に読み直してみようかと思っている。

Tuesday, 6 May 2025

ミュゲの日

 先日、とある女性が着ていたTシャツに目が留まった。そこには花模様のデザインに「Le jour de muguet」と描いてあった。女性にその由来を話すと、とても喜んでくれた。

「Le jour de muguet」はスズランの日の意味である。ヨーロッパ中では、毎年5月1日にスズランを贈るのが習慣になっている。

スズランは花言葉で「幸せが訪れる」や「幸福の再来」である。今にも折れそうで弱々しい白い蕾だが、健気に季節を彩っているのがとてもいい。

発祥はフランスである。昔の王様が民衆に贈ったのが由来とかで、フランスではその日だけ、一般市民が自身で栽培したスズランを売ることが出来る。

パリの街角には朝から自宅の机を持ち出して、スズランの束を並べて売る姿が風物詩になっている。

今では一束2ユーロ程度と聞くので300〜400円程度だろうか。中々捌けない人を見ていると、「だったら3束を4ユーロで売ればいいのに?」と思ってしまう。ただそんなせっかちな人はいない。売る人も買う人も、春の訪れを知る格別な日なのである。

Saturday, 3 May 2025

躁うつ病とMPD

広末涼子が双極性感情障害を公表し、芸能活動を休止する事になった。先日交通事故を起こし、看護婦への暴行で逮捕された矢先だった。病名は長いが、所謂「躁うつ病」であった。

最近は傷害を起こしても、まず加害者の責任遂行能力を検証する。医学が発達し過ぎて、立派な病名が付けば免責される事も多いと聞く。これは兼ねがね何とも腑に落ちないし、被害者の立場を考えると猶更である。

思い出すのは、シドニー・シェルダンの小説「Tell Me Your Dreams(貴女の夢を教えて)」である。物語はアシュレーという美しい女性の傍で、殺人事件が連続する処から始まる。そんな彼女の不安から、ある晩刑事が付き添うが、翌朝その彼まで死体で発見された。やがて精神医が、彼女が多重人格障害(MPD:Multiple Personality Disorder)の犯人であることを突き止めた。

彼女は夜になるとアレットという狂暴な別人格に変身し、事件を起こしたのであった。ところが裁判ではそのMPDが認められ、彼女は無罪になり療養に入るのであった。本の末尾には、MPDの支援組織の一覧まで載せられていて、著者も加害者に寄り添う姿勢が見られた。

シドニー・シェルダンの小説は、「ゲームの達人(Master of the Game)」が有名だが、女の魅力と怖さをスリリングに描いたという点からは、この本が一番だと思っている。最後に医者が「貴女の夢を教えて下さい」と聞くと、彼女は「普通の女になりたい」と応えるが、何とも複雑な気持ちになった。

それにしても昔は狼男やジキルとハイドなどもいたが、決して許されるハズもなかった。時代は変わった。