Sunday 13 May 2018

懐かしむ植民地時代

そのシンガポールには、日本の占領時代の遺物が多く残っている。当時は昭南島と呼ばれ、セントーサ島の戦争博物館に行くと貴重な展示がある。中でも極めつけは、1942年に日本軍の山下中将が英国のパーシバル中将に降伏を迫るシーンである。ところがその隣の部屋には、今度は逆に英国が日本に降伏を迫るシーンがある。どちらも蝋人形でリアルに再現されているから、歴史好きな人なら必見のスポットだ。また市内には市民の戦争記念碑が立っている。日本軍の占領によって5000人が殺害された慰霊碑である。その近くにはチャンギ収容所が、これまた当時のまま保存されている。

しかし不思議と反日感情はないし、何か忘れられた過去の一コマのように思える。いい例がそのセントーサ島である。訪れる観光客の多くは、海を渡るケーブルカーに乗り、南洋の動物園や水族館、ナイトサファリなどを訪れる。しかし戦争博物館に行く人はあまりいない。考えてみれば、日本も英国も所詮外からやって来た支配者だから、自分たちと直接に関係ないのかも知れない。むしろ反対に植民地時代を懐かしむ風潮がある。

未だに最初の英国人ラッフルズは偉人で、彼の名を冠したホテルは最高級の宿である。何より英語を公用語として、車も左車線である。シンガポールに暮すと、暑くて人工的な街並みに直ぐ飽きてしまう。それでも人々が好むのは、植民地時代の雰囲気が残っているからである。その一つが、アメリカンクラブやブリティッシュクラブである。私の場合はオランダクラブに所属していたが、プールやテニスコートが完備し、食事も洋風にアレンジした味覚で大変美味しかった。何より居留地みたいな安心感があり、その居心地の良さから一日の殆どをそこで過ごしていた。

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