Friday 4 May 2018

逆風が吹くと

今から20年近く前に、勤めていた会社が倒産しそうになった。毎日新聞に大きく掲載され、社員には憂鬱な日が続いた。ただ多くの人は、「雅か(こんな大会社が)倒産する訳はないだろう・・・」とタカを括って優雅に煙草を吹かしていた。それは身内だけで集っていたからで、外の空気とは随分と温度差があった気がした。私の場合はテニスクラブがあった。今まで「こっち来いよ!」と気軽に声が掛けてくれた人達が、心持ち視線を合わせなくなった。腫れ物に触るように、何か退いているのが分かった。逆風が吹くと他人は逃げるというが、それは本当だった。そんな時、それまでテニスもしたことがなかったMさんが、「こっちに来いよ、空いているよ!」と声を掛けてくれた。それは砂漠でオアシスに出会ったような救いだった。話を聞くと、どうやらMさんも同業で、ちょっと前にやはり会社が駄目になったという。つまりその道の先輩で、「俺はもう会社に見切りを付けたんだ!」と、その時は悠々自適の生活を送っていた。

もう一人はダブルスのパートナーのWさんだ。ベンチに座って順番待ちをしていると、「M社の仕事があるけどどう?」と突然聞いて来た。M社は名門の大企業だったので躊躇した。しかしWさんは、「大したことないよ!」と、トントン拍子で話を進め、気が付けば簡単な面接で決まってしまった。それまで居た会社を辞めることになると、敵前逃亡のように冷やかな目で見られた。ただ多くの仲間は泥船とも知らず、乗ったまま沈んで行った人も多かった。どちらがいいのか分からないが、早く逃げたのは確かだ。

捨てる神あれば拾う神あり、思えばあれから20年、稀有な人生を歩んできたが、その始まりは意外な人間関係だった。時間が経つと、自分から去って行った人も戻ってきて、今では何も無かったかのように話している。ただMさんとWさんは、命の恩人みたいな人になった。百田尚樹さんの「逃げる力」に託されたメッセージは、「大事な妻(夫)や家族を持とう」だった。私の場合、それに加えると短な遊び仲間がいた。そんな事を思い出した。

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